第5章 舞い降りたエンジェル(その7)
「ど、どうして、こんなメールを・・・。」
哲司は、先ほど別れたばかりの奈菜の顔を思い浮かべる。
そうした予定を伝えるだけなら、先ほど言えた筈だ。
それなのに、別れて直ぐに、メールを打ってくる。
多分、あの駅前で打ったのだろう。
とても店へ行き着く時間的な余裕はない。
ひょっとしたら、奈菜は駅前で待ち構えていたのかもしれない。
いやいや、まさかそれはないだろう。
アパートを出る時間も、乗る電車の時刻も伝えてはいない。
ただ漫然と駅前で待つことなど出来はしない。
やはり、奈菜が言ったとおりに、たまたま偶然に、奈菜の出勤時間に遭遇しただけだ。
哲司の考えは、あちこちを行ったり来たりする。
普通電車がホームに入ってきた。
これで一駅だけ行く。その駅で乗り換えるのだ。
電車に乗っても、哲司は座ろうとはしなかった。
別に混んでいたものではない。
選ばなければ、どこかへは座れるほどの乗客密度だった。
それでも、哲司は座席には目もくれなかった。
乗降ドアのところに立ったまま、携帯の画面を睨むように見つめていた。
「明日、検診に行ってきます。」
この言葉が、何故かしら重たく感じる。
一旦は、携帯を閉じる。
そして、車窓を流れていく景色を眩しげに目を細めて眺める。
「消そうかな。」
再び携帯を開く。
それでも、その文字を見ると、削除のポタンを勇気が出ない。
「普通、このメールを受け取るべき人間は、そのこの父親となる男なのだ。」
そう思う。
「本当にこれを受け取るべき相手の男が分らないから、奈菜が俺に送ってくるのか?」
そういった疑問もある。
だが、その一方で、多分、「誰の子だか分らない」のではないとも思う。
いずれにしても、奈菜が自分にこのメールを送ってくることに、何らかの意味があるように思えて仕方がない。
「このメールを、もし、両親が見たとしたら・・・・。」
哲司は、ありえないことを想像したりもした。
(つづく)