第5章 舞い降りたエンジェル(その4)
洗濯が終ったようだ。洗濯機が終了のブザーで知らせてくる。
哲司は、それを干す場所を迷っていた。
天気予報は、今日から明後日までは晴れだという。
だが、その後は雨が降るだろうと。
つまり、明後日までにここへ戻るのであれば、外へ干せば良い。
だが、それを過ぎるようだと、室内に干すべきだということになる。
「う〜ん、微妙だなぁ。」
だが、ここで幾ら思案しても、いつになったら戻れるのかは分る筈もない。
「安全策を取ろう。」
哲司は、室内に干すことにして、洗濯ロープを鴨居から鴨居に渡した。
そして、洗濯機から取り出した下着やジーンズを適当に吊り下げる。
外へ干して日光を当てるのが気持が良いことには違いないが、万一の事を考えると、この手しかない。
洗濯物を干し終えてから、今度はカップラーメンを食べることにする。
日頃は朝は食べないのだが、今日は特別だ。
これからしばらくは電車で移動しなければならないから、腹ごしらえだ。
途中で何かを食べるとすると、余分な金が必要となる。
それを防ぐ意味もあっての朝食である。
これから数日は実家での食事にありつけるのだから、最悪は、在庫の全てを食べつくしても何とかなる。
戻ってくるときには、小遣いも多少はもらえているだろう。
そうは思ったものの、やはり貧乏人根性からか、ひとつだけに熱湯を注いで食べることにした。
奈菜が「私も好きです」といった麺である。
それを食べ終わったのが9時過ぎだ。
哲司は、すぐさま、出かける準備をする。
時間的には早すぎるぐらいなのだが、ひとつには、奈菜のバイトが始まるまでにあのコンビニの前を通り過ぎたかったのだ。
私鉄の駅にいくにも、どうしてもその前を通らねばならない。
顔を会せるのが辛かった。
10時までに、その前を通り過ぎておきたかった。
そして、もうひとつは、特急券を買いたくなかったのだ。
実家の最寄り駅までは私鉄で行ける。
特急を使えば約2時間だ。
だが、その私鉄の特急は座席指定で、特急券を別に買わなければ乗れなかった。
少しでも金を出したくない哲司は、特急に乗らないで急行で行くつもりなのだ。
そのためには、3時間半の行程が必要だった。
つまり、時間の速さより、料金の安さを選択したことになる。
(つづく)