第5章 舞い降りたエンジェル(その3)
「ど、どうして、それを?」
哲司はそう尋ねる。
この時点で奈菜がそれを知っているということは、あの店長が知らせたのだ。
それ以外には考えられないし、ありえない。
それは分っているのだが、そういう言葉しか出てこない。
「さっき、叔父さんから電話を貰って。
奈菜は聞いていたのか?って。」
「ごめん。急に、昨日の夜遅くに決まったことで。」
「何かあったの?」
「いや、特別に何かがあったと言うことじゃないんだけれど・・・。」
「私のことが原因じゃないよね。」
「それは、関係ない。
もう随分と帰ってなかったから、両親がやいやい言ってくるもので。」
「ほんとうに、ただ、それだけ?」
「そうだよ。」
「じゃあ、明日には戻るの?」
「う〜ん、それはちょっと分らないんだ。
両親が何やら相談したいことがあるって言ってたから、その内容にもよるしね。」
「だったら、何日か泊まるの?」
「そうなるかもしれないし、そうならないかもしれない。
とりあえず、帰ってみないと何とも言えないんだ。」
「奈菜も、これからのこと、いろいろと相談したかったんだけれど・・・。」
「うん、それは分った。
じゃあ、戻ってきたら直ぐに話を聞くよ。
それでいいだろ?」
「・・・・嫌だと言っても駄目なんでしょう?」
「まあ・・・・・・。
でも、そんなに何日も戻らないわけじゃないし。」
「本当?」
「ああ、長くても2〜3日ってところだと思うよ。」
「分った。その間、大人しくしてる。
その代わり、戻ってこられる日が決まったら、必ず私に電話頂戴。
今日みたいに、黙ってそうされるのは辛いから。」
「分った。必ず電話する。」
「じゃあ。」
それでようやく電話が切れた。
哲司は、奈菜からの電話が、嬉しいような、それでいて少し重たいような気がする。
あの店長に伝えておけば、いずれは奈菜の耳にも入るだろうと思って言ったのだが、これだけ早くに情報が伝わるとは想像していなかった。
それだけ、奈菜だけに限らず、叔父であるあの店長にとっても、哲司の行動が気にかかるようだ。
(つづく)