第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その52)
ここまで頭の中を整理してくると、今まで「訳が分らん」と思っていたことが、意外とシンプルなもののように思えてくる。
奈菜の父親は「今日のことはしばらくは奈菜に黙っていて欲しい」と言っていた。
何を考えて答えたのか、自分でもはっきりとはしないものの、「1週間程度なら黙っている」と約束をした。
簡単に「1週間」と言うが、日数にすれば7日もある。
それを長いと思うか短いと思うかは人それぞれだろうし、また、その内容にもよるだろうとは思う。
父親との話があって、いささか興奮状態にもあったのだろう。
そう約束した以上は、その間は奈菜に顔が合わせられないと考えた。
それを感知されることが心配だったのだ。
比較的、思うことがそのまま顔に出るタイプの哲司である。
「そう言ってもなぁ。・・・・・・・。」
哲司は寝転がって、両手を頭の下に入れて枕代わりにする。
「1週間も、あのコンビニに行かずにやれるだろうか?」
外食をすることが許される経済状況ではないから、コンビにはいわば哲司の生命線を握っている存在だ。
そこに1週間行かない。
それが可能かどうかである。
確かに、父親に約束をした「1週間」という期限については根拠はない。
一瞬の判断で口にしたものだ。
それでも、どうして「1週間」と言ったのか、である。
「何だ、簡単なことだ。」
哲司は、それが分って、笑い出したくなった。
以前、つまり、冬休みの時。
奈菜の顔が見たくて、毎日のようにコンビニに顔を出した。
そして、突然に奈菜がバイトを辞めてしまう。
それからは、また元の篭城生活に逆戻りをした。
その篭城生活の基本サイクルが1週間だったのだ。
その習性が、いつの間にか「1週間は引きこもっていられる」という限界点に摩り替わっていただけだ。
その程度なら、誰にも会わず、誰とも喋らなくても、やっていける自信のようなものがあった。
「あははは・・・・。だから、一週間・・・だったのか。」
悲しい笑いであることには、まだ気がついてはいない哲司である。
(つづく)