第1章 携帯で見つけたバイト(その22)
次々と書棚や鉄庫などの大物が運びだれて、その部屋全体の大きさがはっきりと分るぐらいになってきた。
「次は、机類だな。先に、その上に乗っかっているパソコンを運んでくれ。」
香川主任が男達に指示をしている。
「主任、こいつも出して良いんですか?」
例の、動かしたら壁の中の装置からピーピーという警告音が鳴り響くPCを指差して訊く。
最初にこの装置のことを香川に申告した男である。
「ああ・・・・それなぁ・・・・・・・・・。」
香川が困った顔をする。
「警告音が鳴っていても、ある程度の距離まで運んでしまえば何とかなるでしょう。」
その男が言う。
「だけどなあ、どうしてこいつだけがそうなっているんだ?」
「それは分りませんが、このままだと引越しできないでしょうから。」
「それは、そうなんだが・・・・・・・。
万一、何か不都合な事が起きると、あとあと面倒だからなぁ。」
香川はまだ迷っているようだ。
先ほどは、「後から考える」と言っていたのだが、とてもこうした現場でそれをじっくりと考えるヒマはないだろう。
哲司は、与えられた作業を自分なりのペースで手を動かしながら、耳だけで香川達のやり取りを聞いていた。
自然と笑いがこみ上げてくる。
「あのう・・・・・・。」
突然、予期しない人間の声がした。
山田である。
自分の作業スペースからゆっくりと歩み出て、香川のいる方向に歩き出す。
「何だ? 何か問題でもあるのか?」
香川は苦りきった顔を見せる。
このうえに、さらに、問題を抱えたくはないという顔である。
「あのアラーム、止められますよ。」
山田が、香川の傍まで行って、そうひとこと言った。
「何!・・・お前、止め方が分るのか?」
香川は怒っている。
「だったら、どうして最初に言わないんだ」とでも思っているようだ。
当然だろう。
「はい、あれは盗難防止用の監視装置です。
データセキュリティ会社などでよく使われるごく一般的なものです。」
山田は淡々とした言い方をした。
哲司は「山田の奴、ばかなことを」と思った。
確かに彼が言うとおりなのだが、それを今、このタイミングで言うべきではないと思うのだ。
(つづく)