第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その41)
結果としては、父親の主導なのか母親の主導なのかはわからないのだが、兎も角もこの両親が学校と掛け合うようにして、何とか工業高校への進学が方向として決まる。
高校へは行くものか、と考えていた哲司だが、周囲の友達の話を聞いていると、皆、それぞれに高校あるいは専門学校へ進学すると言う。
「俺一人だけか・・・?」
進路を鮮明にしていなかったのが自分だけだと知ったとき、内心は少し慌てた。
勉強はしたくない。テストなどをされるのはもうこりごりだ。
仲の良かった連中も、皆、同じような事を言っていたものだから、少なくとも何人かは哲司と同じように、進学をしない奴がいると思っていた。
信じていた。
だが、いざ、卒業のときが近づいてきたときには、進路が決まっていなかったのは哲司だけとなっていた。
「う〜ん・・・・。どうする?」
自問自答するが、答えが見つかるはずも無かった。
その時になって、初めて、父親が言っていた言葉の重みを実感として感じていた。
だが、それだからといって、いまさら父親に相談する気持にもなれなかった。
そんなときである。
学校の担任が、帰りに職員室へ来いと呼んだ。
行って見ると、「この学校を受けてみろ」と言う。
「受けても合格する自信はない」と言うと、「受けさえすれば何とかできる」と明言する。
「要は、お前に行く気があるのかどうかだけだ。」
担任はそう言って、受験申し込み用紙を渡してくれた。
見たら、提出期限を過ぎていた。
「これ、過ぎてますけれど・・・」と言ったら、
「馬鹿!・・・そんな事は気にしなくて良いから、持って帰って必要事項を記入して、明日、俺のところへ持って来い。」
担任はそれだけを言って、席を立ってしまった。
その受験申し込み用紙には、保護者、つまり両親の承諾印の欄があった。
今夜、両親に書いてもらうことになる。
そう覚悟をして持って帰ったのが、まるで昨日の事のように思い出される。
今、考えると、父親は、そうした哲司の立場を十分に分った上で、担任にそのような対応を頼んだような気がする。
(つづく)