第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その38)
「シンプルに考えてだ・・・。」
哲司は、まるで自分自身に言い聞かせるようにそう言った。
奈菜の父親の行動には驚きはしたが、父親の立場からすればそれなりに納得は出来る。
年齢も違うし、親になったことも無い哲司だが、もし自分が父親の立場だとしても、やはり娘の相手の男かもしれないとの情報があれば、多分、同じように接触は試みるだろうと思う。
自分の目で、どんな男なのかを確かめたくなるものだろう。
その一方で、あの店長や喫茶店のマスター、つまりは奈菜の母方の叔父と祖父は、一体どうしてあのような接触の仕方をしてきたのだろう。
奈菜本人の意向を踏まえた上での対応のようだが、俺のことを責めているようには見えないし、責任を取れとも言ってはいない。
そのうえで、「改めて奈菜と付き合ってみてくれ」と言ってくる。
この立場の違いは何なのだ?
そうだ。父親も、俺のことはある程度調べたと言っていたし、マスターも同じような事を言っていた。
つまり、両方が別々の探偵社か何かに依頼して、俺の身辺調査をしたのだ。
普通の家族であれば、考えられない事ではないのか。
そんな無駄な事はしないだろう。
調べられた側からすれば、決して良い気分である筈はないのだが、奈菜の口から「てっちゃん」という愛称が出て、そのうえに「彼はお腹の子供の父親ではない」と明言しなかったのだから、父親が疑うのは理解できる。
疑われても仕方が無い立場にいたことになる。
不本意なのだが。
その調査で、俺が学校にも行かず、かといって働いているのでもない。
つまり、巷で言われている「ニート」だとの報告がなされたようだ。
腹は立つが、そう指摘されれば、返す言葉もない。
だが、それは、いずれの探偵社でも、その表現の違いはあっても、同じ調査結果となった筈である。
調査対象となった本人がまったくそうした事を知らなかったのだから、隠そうにも隠せるものではない。
その同じような調査結果が報告された筈なのに、どうして祖父と父親の立場がこうも違ってくるのだろう?
そうだな。
その違いは、奈菜の意思が入っているか否かの点なんだろう。
その点に関しては、父親の方が奈菜との距離があるように思える。
(つづく)