第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その36)
テーブルの上に拡げられたノートを改めて眺めてみる。
奈菜と初めて会ったのが昨年の12月21日。
年が明けた1月の9日にスノボーを抱えて行ったことから、急な展開になる。
そして、それからまもなく、奈菜は哲司の前から姿を消す。
それから2ヶ月以上が経っている。
哲司も、淡い恋が壊れたのを意識していたから、そろそろその傷も時間と共に癒えてきたかなと思っていたら、また突然のように奈菜が戻ってきたのだ。
この哲司が知らない2ヶ月強に、一体何があったのだろう?
奈菜には、何か、大きな変化があったのに違いない。
哲司はそう思う。
そうでなければ、こんな展開など、小説にだってありゃしない。
奈菜の本当の気持って、どこにあるのだろう?
哲司と付き合いたいと考えている事にはほぼ間違いは無いのだろう。
喫茶店でもそれを否定しなかったし、これから先のことも2人で相談して・・という雰囲気があった。
その奈菜の依頼によって、店長やマスターが哲司に対していろいろな話を聞かせているのだろう。
「私から頼んだの」
店長からお茶に誘われたとき、躊躇する哲司にそう囁いたのも奈菜本人である。
その一言が無かったら、哲司も店長と一緒にあの喫茶店に行く事は無かったのだ。
つまりは、こうした一連の騒動に巻き込まれる事は無かった。
少なくとも、奈菜の父親に疑われている事すら、意識しなかったはずだ。
「う〜ん、だけど・・・・。」
哲司は、一旦はそのように思ったものの、今日の午前中の店長やマスターからの話を聞かなかったとしても、やはり奈菜の父親は同じようにして哲司を訪ねてきたことに気がつく。
そうなんだよな。
父親は、奈菜の意思とは無関係に動いていたんだから。
もし、店長やマスターの話を聞いてない状態で奈菜の父親に来られていたら、先ほどと同じように、一定の自分の主張が出来ただろうか?
そう考えると、まったくもって自信はない。
それほど、父親の追及は鋭いものがあった。
それだけ、娘のことを心配しているということなのだろうか?
(つづく)