第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その35)
今日、奈菜の父親に「これからも付き合うつもりなのか?」と訊かれて、「そのつもりだ」と答えた。
そのこと自体は、決して自分を偽ってはいない。
それは確かだと自分でも思う。
だが、だからと言って、これからの具体的な将来像をイメージできるほどの確固たるものがある訳でもない。
そこが、なんとも中途半端だ。
奈菜の祖父に当たるあの喫茶店のマスターは、もっと踏み込んだ言い方をしてきた。
「ともかく、しばらくは普通の女の子として付き合ってみてくれ」と言って来たのだ。
通常ではありえないことだ。
女の子側の家族から、「その過程は任せるから、付き合ってみて欲しい」などと言われるのは、一昔前の見合い結婚の場合だ。
まだ高校生、それでいて、そのお腹にはどこの誰の子かはっきりとはしない子供が宿っている。
そうした状況に置かれている奈菜と、「任せるから、しばらくは付き合ってみてくれ」ということは、異常にも近い驚きがある。
ここにも、父親側とマスター側での大きな立場の違いがある。
父親は、まだ「それでいい」とは言っていない。
つまり、奈菜と哲司が今後も付き合うとしていることに対する立場を鮮明には示していない。
もちろん、最初は、「絶対に許さない」との立場だったのだろうと思う。
それは、哲司にもよく分かる。
哲司に関する誤った情報が集められていたのだから、そうした拒絶の色が最初から色濃く出ていた。
ただ、今日、哲司が望んだことではないにしろ、あれだけいろいろな話ができた事で、互いに相手の立場や考え方がある程度理解できたような気がする。
だからなのだろう。
「これからも付き合いたい」と言った哲司に対して、父親は「イエス」も「ノー」も言わなかったのだ。
今、こうして哲司が改めて考えているように、父親も、今日の哲司との話を踏まえて考える事があるのだと思う。
次に会うときに、どのような話ができるのか。
それが、これからの課題のような気がする哲司である。
(つづく)