第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その32)
「お腹の子供をどうしようか?」
奈菜は、哲司に向かって、そう訊いたのだ。
つまり、その時点においては、奈菜は子供の扱いについてまだ決めかねていたということになる。
どこの誰か分らない男にレイプまがいでの性交渉を持たされた結果の妊娠である。
少なくとも、奈菜の言葉を信じればそういうことになる。
それなのに、それが分った1月から既に2ヶ月も経っているのに、奈菜は一番肝心なことすら答えを見つけていなかったことになる。
「う〜ん、女の子の気持って・・・・・・。」
それが哲司の偽らざる心境だ。
よく分からない。
ましてや、その答えを無関係の哲司に問うてくるのは、異常としか思えない。
で、哲司は「奈菜ちゃんは、どうしたいの?」と訊いたような気がする。
そうとしか言いようが無かったのだ。
「私の赤ちゃんだし・・・・・、できれば・・・・・、産みたい・・・って思ってる。」
それが奈菜の答えだった。
しかも、そうした思いは、父親やあの店長などにも伝えていると言ったのだ。
それでも、結論は出されていない。
それが、本音だったようだ。
だから、「お腹の子供をどうしようか?」 などと哲司に訊いてくるのだ。
それを聞いたときには、哲司も一気に驚く話を聞いたものだから少し興奮状態だったのだろう。
自分の問題とは捉えていなかった。
「お父さんには反対されただろう?」と確認をし、「てっちゃんも反対?」と訊かれて答えられなかったのだ。
それは、答えられなくて正解だったと、今は思う。
哲司には関係のないことなのだから、答えるべきでもない。
だが、その今の奈菜にとっての最大の懸案である子供の件について、真正面に哲司が問われた事の意味は大きい。
しかも、2ヶ月の時間を乗り越えてきているのだ。
(つづく)