第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その30)
「う〜ん、まるで台風がいきなりやって来たみたいだなあ。」
哲司は改めてそう思う。
奈菜がバイトに復帰したと思ったとたんに、携帯番号とメルアドが手に入った。
これは、奈菜から直接に受け取ったものだから、当然に奈菜の意思だ。
だが、その後、今日になって、店長が珈琲に誘ってきた。
「どうして?」と訝ったものの、奈菜から「私が頼んだの」という言葉もあって、渋々その要請を受けた。
そこからが、またまた驚きの連続だった。
奈菜は店長の親戚だった。叔父と姪という関係だと言う。
おまけに、その珈琲を飲みに入った喫茶店のマスターは店長の父親だと言う。
つまり、奈菜の祖父に当たると言うのだ。
「それでなのか?」と思う。
奈菜が言いにくいことを、叔父や祖父が代わりに伝えてきた。
そんな内容だった。
そして、その話が終ってアパートに帰ってきたら、奈菜の父親が待っていたのだ。
いや、待ち伏せていたと言った方が正しいのかもしれない。
その父親からも、かなり衝撃的な話を聞かされた。
だが、この2つの話、つまり奈菜の叔父や祖父から聞かされた話と、奈菜の父親から聞かされた話とでは、もちろん共通することもあるものの、明らかに捉え方や考え方が異なるものが数多くある。
それでいて、今の哲司には、そのどちらが正しいのかを判断する材料も根拠も無い。
ただ、明確なのは、父親は奈菜の意思を踏まえての行動ではないということだ。
あくまでも、父親の立場で哲司に接触をしてきている。
しかも、父親は「今日、会って話したということをしばらくは黙っていて欲しい」と言ったのだ。
奈菜の意向を踏まえているらしい叔父や祖父の立場とは明らかに違っている。
「どちらが正しいのか、というよりも、どうしてそんな話をこの俺にするのだろう?」
その点が、まったく想像できない哲司である。
(つづく)