第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その29)
確か3月の終わりぐらいではなかったか。
アパートの窓から見える公園の桜が咲き始めていた。
その頃だと、高校も春休みになっていたのだろう。
だから、単純に、またバイトを始めたのかもしれなかった。
コンビニに行って奈菜が戻っているのに気がついたとき、奈菜は少し照れくさそうにしていた。
そして、いつもの通りにカップ麺を買ってレジに並んだとき、「いらっしゃいませ、お久しぶりです」 と挨拶をしてきた。
失恋をしたつもりになっていた哲司にとっては、これだけでも身体が宙に浮きそうなぐらいに嬉しいことだ。
二度と会えないだろうと覚悟をしていた奈菜が、再び、哲司の日常に戻ってきたのだから。
ただ、今回は、それだけには留まらなかった。
レジを済ませてアパートの部屋へ戻ってから気がついたのだが、レシートの他にもう一枚のメモが渡されていた。
それが、忘れもしない、携帯番号とメールアドレスが書かれたものだった。
「キャッホー!!!!!!!」
天井に手が届くのではないかと思うほどに、哲司は万歳をして飛び上がった。
さて、その日は、具体的にいつだったろうか?
哲司の頭には、公園の桜の様子が浮かんでくるが、ただそれだけでは、何の役にも立たない。
「ああ、何だ・・・。」
哲司は突然声を上げた。
携帯番号とメルアドを受け取ったらどうする?
自分自身にわざと問いかけてみる。
「そう、そうだよなぁ。当然、直ちに登録するよな。」
哲司は、そう言ってから、おもむろに携帯電話を手にする。
そして、奈菜の電話番号の登録画面を開いてみる。
そこには、登録した日付が打ち込まれているのだ。
「おう、3月26日か。」
それを確認してから、今度はまた例のノートにそれを書き込むようにする。
(5)3月26日 再び奈菜がバイトに来ていた → 携帯番号とメルアド
まずは、このように書き入れた。
(つづく)