第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その28)
一旦は、終ったと思った恋だった。
だから、その全てを忘れてしまおうと思っていた。
それから、2ヶ月。
新たな恋に出会うことも無く、それでも春が近づいて気温が上がっていくと共に、奈菜への思いは、ようやく何とか過去のこととして整理が付きそうだった。
そんなときに・・・・、である。
また、哲司の日常に、奈菜が現れたのだ。
「これまた、どうして?」とは思ったものの、哲司は自分が拒絶されてはいなかったという嬉しさがこみ上げてきた。
突然にバイトを辞めたのには、それなりの理由があったに違いない。
だが、それがひょっとすると、自分にも関係することなのかも知れないという不安は確かにあった。
だから、突然目の前からいなくなった奈菜を追えなかった。
「スノボーの一泊旅行」にしたって、半ば冗談の部分もあったかもしれない。
あるいは、スノボー仲間では、わざわざ雪のある所まで行くのだから、日帰りはもったいないということで、一泊するのが常識になっていたのかもしれない。
男と女が行っても、必ずしも男女の関係が前提ではないのかもしれない。
スノボーの世界をまったく知らない哲司は、そう思うことで諦める理由を探していたようだ。
そう思うように努力していた。
奈菜の態度は、客商売としての接客の域を出たものではなく、たまたまスノボーという趣味が共通項としてあったから、他の客よりは話しやすかった。
ただ、それだけだったのかもしれない。
それを、哲司が勝手に「恋」だと勘違いをした。
いわゆる「片思い」という奴だった。
そう、思うことにしていたのだ。
その奈菜が、またあのコンビニでバイトをし始めた。
同じコンビニでバイトをすると言うことは、少なくとも奈菜は哲司に会いたくないとは思っていない。
これだけは、確信がもてたことである。
嫌われたわけではなかった。
それが、嬉しさに繋がった。
「う〜ん、それはいつの日だったのだろう?」
また、哲司は、ノートに向かって頭を捻り始めた。
第2幕の始まった日である。
(つづく)