第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その25)
哲司と同じように、避妊は考えたが失敗をした?
そういうこともあるだろう。
結果として妊娠はしなかったものの、哲司も過去にそうした経験がある。
コンドームと言えども、絶対的なものではないからだ。
もし、大人たちが疑っているように、「強姦」が事実ではなく、誰か意中の男との性行為があっての妊娠なのであれば、奈菜がそれを秘密にしたい気持は分らないではない。
父親が言うように「男としての責任」を追及されることになるからだ。
そうした追及に耐えられる男であれば、奈菜だって素直に言えるのかもしれないが、きっとそうではないのだろう。
高校の同級生であったりすれば、当然にそれだけの経済力も無いだろうし、責任を取れる立場でもないだろう。
だが、そうだとすれば、その「てっちゃん」という名前が出てくるのが不思議なのだ。
それも、何となくこの俺を意味しているような言い方をしている。
奈菜が、意中の男の影を隠すためにこの俺を名指ししたと考えればことは簡単に整理できるのだが、それであれば「どこの誰か分らない男に強姦をされた」と訴えることの意味がなくなってしまう。
「う〜ん、奈菜ちゃんは何を考えているんだ?」
哲司は、また寝転がって天井を睨むことになる。
「俺としては、強姦されたという話しの方に信憑性を感じるな。」
哲司が呟く。
それは、哲司の希望なのかもしれない。
特定の意中の男がいるとは思いたくは無いのだ。
その意中の男の子供を宿した奈菜と、これから付き合っていくということであれば、それはまるで「馬鹿な男」を演じることになるからだ。
「強姦されての妊娠」であれば、そうした可哀想な女の子を救う立場に立つことにもなる。
あの喫茶店のマスターにも言われたことだが、「どこの誰の子か分らない子を身篭った女の子と付き合えるのか?」との問いには、単純に「イエス」と言える。
それが奈菜であるからだ。
逆に言えば、「強姦」による妊娠でないのであれば、これからの話しは、一切考えられなくなる。
それが哲司の本心なのだ。
(つづく)