第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その24)
「どうして、違うとは言わないのだ?」
その疑問に行き着く。
奈菜は、その妊娠の原因を「どこの誰か分らないうちにそうなった」と言っているようだ。
つまり、合意ではない性交渉、簡単に言えば「強姦」によるものだとの説明である。
だが、この話を証明するものは何もない。
もちろん、証明する人間もいない。
だから、それを聞いた周囲の大人たちは、いずれも懐疑的に捉えている。
事実は、誰か特定の男がいるのだが、それを隠すためにそうした話を作り上げた。
いわば、奈菜の創作だと考えているようだ。
だから、奈菜の父親も、その真偽を確認したいと思って哲司に会いに来たのだ。
その、「特定の男」こそが哲司なのではないか、との疑いである。
そうでなければ、自分の娘の恥ずかしい部分をそこまで晒したりはしない。
隠すことがあっても、決してオープンにはしない話だ。
それでも、幾ら考えても、奈菜が「巽哲司の子ではない」と断言しないことが納得できる理由など、想像すら出来ない。
だが、それでいて、奈菜に対する嫌悪感や敵対心というものがあるものでもない。
「どうして?」という問いも、どちらかと言えば、好意的な問いかけである。
そこが、好きになった弱みであることに、哲司自身はまだ気がついていない。
奈菜の妊娠は俺のせいではない。
Hは一度もしていない。
そうした断固とした確信があるから悠長に構えているのだが、奈菜の父親にもその点を疑われたように、過去に一度でもその原因となりうる性交渉があれば、果たして今のように悠長に構えていられるだろうか?
そりゃあ、誰に教えられたのでもないが、哲司も避妊だけはしている。
過去に、そうなった経験がさほどにある訳ではないが、それでもその都度コンドームだけは準備をしたし、それを使った。
だから、仮に、仮にでも奈菜とそうした行為に及ぶことがあったとしても、その鉄則だけは守っただろうと哲司は思う。
だが・・・・・・・、まてよ。
哲司は、ここまで派生的に考えて、何かにぶち当たった。
一体どこの誰なのかは知らないが、ともかくも高校生である奈菜と性交渉に至ったのだ。
個人的なつながり、さらには多少なりとも「好きだ」という気持があるのであれば、当然のことだが「避妊」はしただろう。
だったら、どうして妊娠した?
(つづく)