第1章 携帯で見つけたバイト(その2)
「あと1人来る予定だから、揃ったら手順を説明するから。」
現場責任者の男は誰に言うとでもなくそう言った。
「俺を入れて5人のバイトか。」
哲司は沢山の人間の中で仕事をすることは嫌いだった。
比較されるのが何より嫌だった。
「まぁ、これぐらいだったらマシなほうだな。」
そう思った。
アルバイトらしき男達の傍に立って、同じようにしてただ時が来るのを待つ。
30歳ぐらいかな?と思える1人を除けば、他は哲司とほぼ同年代だ。
生活のためというよりは、やはり遊びや買い物に要る金が欲しいからというのがバイトをする動機のように思える。
初めは皆立ったままでいたが、5分10分と経つと、いつの間にか全員が地面に座り込んでいた。
引越し作業と分っているから、誰もが汚れるのを覚悟してきている。
雨では無いから、コンクリートの歩道の上に座ることも厭わないのだ。
哲司も歩道の上に胡坐をかいている。
他にすることが無いから、ジーンズのポケットから携帯電話を取り出してゲームをやリはじめる。
他の面々も、同じように手持無沙汰なのだろう、30歳ぐらいだと思える1人を除いて哲司に習うように携帯電話を弄んでいる。
ゲームをしているのか、あるいは誰かにメールをしているのかは区別が付かないが、皆と同じ状態にいることで哲司自身が落ち着くのが分る。
これから同じ場所で同じように作業をすることが分っているのに、誰も互いに話そうとはしない。
もちろん哲司も誰かに話しかけようとは少しも思わない。
邪魔臭いのだ。
ここで何かを話したからといって、何の役にも立ちゃしない。
煩わしいだけだ。
そう、思っている。
今は、待っていろと言われているから、待っているのだ。
他にすることが無いから、携帯でゲームをやっているだけだ。
誰かに迷惑を掛けているのでもないし、
誰かに文句を言われる筋合いでも無い。
行くぞ、と言われたら、言われたとおりに動けばいいのだ。
そうしておれば、金がもらえるのだ。
時給1500円で、1日のバイト時間が3時間。
つまり、日当にして4500円。
これが今日から7日間ある。
すると4500円×7日で、31500円となる計算だ。
それで、再来週の土日は、奈菜と・・・・。
そこまでで、哲司の顔がにんまりとした。
その時である。
さきほどの現場責任者の男が携帯電話を握り締めるようにしてやってきた。
「じゃあ、今から準備体操するからな。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
そこにいたアルバイト要員の全部が、何を言われたのか分らないというような顔をして見せた。
(つづく)