第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その19)
父親ではないだろうと思う。
九分九厘、母親からの電話だろう。
そう思うと、哲司は素直に電話に出られない。
「そのうちに、諦めるだろう。」
哲司は、そう思ってじっと電話が鳴り止むのを待っている。
だが、依然として電話が「出ろ出ろ」と喚き散らす。
哲司の方が根負けをした。
諦めて電話に出る。
「もしもし・・・・・・。」
「ああ、お母さんだけれど・・・。」
「うん、何だよ?」
「元気なの?」
「ああ・・・・、元気だよ。」
「あのさ、あんた、冬休みにも帰ってこなかったんだし、春休みぐらいは戻っておいでよ。1日で良いから。」
「・・・・う〜ん、いろいろと忙しいんだ。」
「そりゃさ、勉強も大事だけれど、たまには息抜きも必要だよ。」
「バイトもあるし・・・・・。」
「冬休みのときにも、同じことを言ってたけれど、考えると言ったっきりで、その返事もしてこなかったし・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ねぇ、お父さんが定年を迎えることでもあるしさ、この休み中にはどうしても一度顔を見せて欲しいんだ。
お母さんからの頼みだよ。お願いだよ。」
「・・・・分ったよ。一度、考えてみる。また返事するよ。」
「ああ・・・・、それはそれで良いんだけれど、冬のときにも、あんたは同じことを言ってたんだよ。返事するって。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「でも、電話の1本もなかったし。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「必ず電話くれる?」
「ああ・・・、必ずするよ。」
「じゃあ、お願いね。待ってるから。」
「ああ・・・・・。」
それで、電話は切れた。
(つづく)