第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その18)
「・・・・・・・・・。」
寝転がって天井を見ていて、哲司は「エライことを約束してしまった」と反省をしている。
それは、奈菜の父親と別れるとき、「今日の話しは奈菜には黙っていてください」と言われて、「1週間が限度ですが」との条件付ながら、それを了解したことだ。
まさか、こんなややこしい話になるとは想像もしていなかったから、根拠は無いものの、「1週間程度ならば黙っていられるか・・・」との考えがあったのは事実である。
「ああ、八方塞だな。
しばらくは、どうにも動きようがない。」
一連の理屈に合わないと思われることを解明しようとすれば、奈菜に直接問い質す必要がある。
だが、父親との約束で、1週間は父親と会ったことは言わないと約束をしている。
それを伏せたままで奈菜に会うことは、理屈の上では可能かもしれないが、哲司には、奈菜に会ってそれを悟られないだけの自信は全くなかった。
恐らくは、問い質す会話の中で、「どうして、そんな事を訊くの?」と言われるだろう。
その時に、こうこうだから・・・と明快に説明できるものがない。
このまま強行すれば、奈菜から疑われることは確実だという気がする。
「1週間、じっと我慢するか。」
哲司は声に出して、そう言った。
その時、携帯電話の着信音が鳴った。
「誰だ?」
哲司は、一瞬だが、先ほどの友人からの電話かと思った。
「それからな・・・」と追加の情報でも呉れそうな気がしていたのだ。
寝ていた状態から半身を起こすようにして、テーブルの上の携帯電話を手にする。
だが、表示されている名前は違っていた。
実家からである。
哲司の両親はいずれも携帯電話を持っていない。
持ちたくないと言うのではなく、その必要が無い。
それが両親の意見である。
だから、哲司に連絡してくるのも、全て自宅の固定電話からだ。
「なんだ?今頃。」
そう言いつつも、電話に出るかどうかを迷う哲司である。
(つづく)