第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その16)
それを確認してから折り返し電話をくれるとの約束で、電話を切った。
「へぇ〜、あいつのお袋さんって、案外几帳面なんだ。」
哲司はおかしなことに感心する。
別に、息子が適当だから、その両親も同じだとは限らないのだが、まさか家計簿の記録から、そうした日を特定できるとは思っても見なかった。
そう言えば、哲司の母親も、それらしき帳面は付けていた様にも思うのだが、何しろその現物をこの目で見たことは無かったのだから、何とも言えない。
それに、万一、これがうちの家計簿だから、よく見ておくように、とでも言われたとしても、とてもそれを見る勇気はなかったろう。
子供から見ても決して裕福だとは思えない家庭内の状況があったし、その上に、哲司のことで要らぬ出費を重ねている筈だった。
そうしたものを見たくはなかったし、母親だって、きっと見せるつもりなどは毛頭無かったに違いない。
15分ぐらい経ったろうか、彼からの電話が鳴った。
「おう、分ったか?」
「お袋の記録によるとだ、1月の10日に来たらしい。
それで、一晩泊まって行った。」
「10日か。て、ことは、俺がスノボーを預かったのはその前日の9日だという事だな?」
哲司は、自分に記憶が無い事を棚に上げて、その証明をかれの言葉に頼ろうとしている。
「・・・う〜ん、・・・・多分な。」
「多分?・・・・・さっきは、両親が来た前日だと言ったじゃないか。」
哲司はその一言に少しムッとする。
「そんなに怒るなよ。俺だって、一生懸命に思い出しているんだから。
第一、お前がその日をちゃんと覚えていないから、こうしてそれを訊いて来てるんだろう?
どっちもどっちだ。」
彼も、折角、自分の母親のところまで電話を掛けてそうした情報を提供しているのに、哲司がとことん疑った言い方をするものだから、少し頭に来ている。
確かに、その点を言われると、哲司も弱い。
哲司自身がしっかりと記憶さえしておれば、何もこんな事を訊ねなくても済むからだ。
「でも、九分九厘、その前日に間違いは無いんだろ?」
哲司は言葉のトーンはやや下げたものの、それでもその点については確認を迫る。
「まぁ、その程度の確率で言うのであれば・・・。」
「分った。」
哲司は、調べて連絡をくれた事への礼を言わずに、そのまま電話を切った。
(つづく)