第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その15)
「おう、元気か?」
こちらから掛けた手前、一応の挨拶はしなければ・・・と、哲司はそう声を掛けた。
互いに、相手の名前など呼びはしないが。
「あっ、そうだ。言ってなかったけど、俺、合格してさ。」
「おお、そりゃあ良かったな。だったら、一言ぐらい連絡くれても良かったのに。」
「2浪してたしさ、今更ってこともあるし・・・。」
「お前らしくないな。遠慮なんて。」
「いゃあ、別に遠慮したってことでもないし・・・。
ところで、何?」
一応の前段部分が終ったと互いに感じたのだろう、彼のほうからそう切り出してきた。
「あのさ、変なことを訊くようだけれど・・・・・。」
「一体、何?」
「今年の始め頃だったと思うんだけれど、お前からスノボーを預かったことがあったよなぁ。」
「ああ、そんなこともあったなあ。」
「あれって、いつのことだった?」
「・・・・う〜ん、・・・あれは、大学入試が近づいていて、親が最後の檄を飛ばしにやってくることになってたから、1月になってからだ。」
「具体的な日にちを覚えてないか?」
「そんなもの、いちいち覚えちゃいねぇよ。でも、どうしてそんなこと、訊くんだ?」
「いゃ、ちょっとしたことがあって・・・。」
「なんだ、そりゃあ・・・。」
「何とか、正確な日が分らんか?」
「う〜ん・・・・、そりゃあ、入試問題より難しいな。」
男は、そう言って電話口で笑った。
「どうしてもその正確な日が必要なのか?」
哲司の雰囲気を感じたのか、男は念を押してくる。
「ああ・・・。何としてでも知りたい。」
哲司も、それを重ねて主張する。
「よし、分った。
お前に遊びに来いって声を掛けたのは、実はその連絡があったからなんだ。
お前に預けたその翌日にオヤジとお袋が来たんだから、その日が分ればその前日ってことだ。」
「じゃあ、確実な日にちが分ってるんじゃないのか?」
「あははは・・・・。その肝心な、両親が来た日がはっきりとしない。
でもな、お前がどうしても知りたいって言うんだったら、お袋に訊いてみてやるよ。
あれでも、お袋は家計簿をつけててな。俺のところへ来た日は、その交通費や土産代の記録がある筈だ。」
(つづく)