第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その12)
スノボーそのものに興味が無かった哲司は、まるで扱いにくい荷物を持ったときのような顔をしていたと思う。
決して、そんなに重量物だとは言わないが、テレビなどで見るのと違って、意外と大きいものだ。
こいつを抱えて街中を歩いたのだから、いい加減に邪魔者扱いの待遇である。
それでも、コンビニには立ち寄った。
荷物があるのだから、一旦はアパートの部屋に戻っても良さそうなものだが、その時の哲司はそんな邪魔臭いことはしたくないと思っていたのかもしれない。
何しろ、奈菜のバイト時間の終了間際の時刻だったのだ。
遠回りをしていると、奈菜が帰ってしまう。
そう、考えていたのかもしれない。
だが、今、改めて考えても、それが事実だったかどうかはよく分からない。
兎も角も、そんな経緯で、その友達から預かったスノボーを脇に抱えるようにして、店でいつものカップ麺を買ったのだ。
そのレジをしたときだった。
「スノボーされるんですか?」
と奈菜が訊いてきた。
いや、訊いたと言うよりも、「そうに違いない」との感嘆の意味合いが強かったのだろうと思う。
羨望の眼差しがあったように感じた。
だからなのだ。
即座に「いいや、僕はしない」とは言えなかった。
「ヘェ〜、そんなに興味あるの?」って感じだった。
確か、その時、何かを言って置かなければ・・・と思った記憶はある。
「これは、僕のじゃない、友達のだ」
「預かっただけだ」
「僕は、スノボーはしない」
「やったこともない」
そのいずれでも良かったのだとは思うのだが、どれにするかを迷ったうちに、後ろから次の客がレジを急かしたのだ。
仕方なく、そのいずれの言葉口にすることなく、その日は店を出ることになった。
だが、待てよ。
もし、あの時、考えた言葉の一つでもちゃんと言えていたら、今頃、こんなややこしいことにはなっていなかったかも知れない。
哲司は、そう思うものの、まとめようとして準備したノートには、何も書けない。
事実は、1月中旬頃、スノボーを持って店に行ったら、奈菜が勘違いをした。
ただ、それだけのことになる。
(つづく)