第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その3)
だが、その初っ端から日付がはっきりとしない。
確か、去年の12月だったと思う。
それも、かなり押し迫ったときだったように思える。
そこまでは何とか絞り込めるのだが、12月の何日だと特定できるものは無い。
状況的には、奈菜の高校が冬休みに入ってからだろうから、20日は過ぎていたのだろう。
いや、まてまて、そうとも限らない。
最近は、休み前に行われる期末試験が終ると、教師どもはその採点とそれに続く成績表のとりまとめで忙しくなるから、何やかんやと理由をつけては授業を休む。
その結果、自習時間になったり、挙句の果てには、自宅学習なんてことにもなりかねん。
つまり、実際の冬休みに入る前から、生徒達にはかなり自由な時間が与えられる事になる。
もし、奈菜が行っている高校がそうした状況だったら、必ずしもバイトを始めたのが冬休みに入ってからだと決め付けるは危険だろう。
「まあ、仮に、12月の21日だとしておこう。」
こう考える哲司は、あの小学校の時の絵日記を書いたときから、さぼとも成長していないのかもしれない。
それでも、そうした曲りなりにでも出会った日を置かないと、一歩も前に進まないのだから、それはそれでやる気の証明にはなった。
で、最初の行に、「12月21日、コンビニでバイトしているのを見る」と書き入れる。
「それでだ、その日は、カップラーメンがなくなっていたから、それを買いにコンビニに行ったんだった。」
こうした感覚は、どうやら記憶に留まるらしい。
それとも、他に、あのコンビニにいく理由が無かったのかもしれない。
「いつもと同じ感覚だったから、10個ぐらいを買ったんだろうな。
そこで、・・・・。
そうだ!最後の5千円札で支払ったんだ。」
哲司は、そこまで行ってから、ようやく5千札のことを思い出した。
絵日記に書くためのように、その時の映像が蘇ってくる。
「そうだ、そうだ、・・・・で、その釣銭とカップ麺を持ってアパートに戻ってきたんだ。」
哲司は、自分の記憶が戻りつつあることに嬉しさを感じる。
やればできるじゃん!ってな気分だ。
「だが、待てよ。
どうして、その時は釣銭を確認しなかったんだろう?」
今、考えても、どうしてだかは分らない。
だが、いつもの自分ではない事だけは、明確に言える。
(つづく)