第4章 奈菜と言う名のマドンナ(その2)
奈菜は18歳、高校生である。
制服姿は見たことはないが、それを着れば、ごくごく普通の、どこにでもいる女の子だと思う。
少なくとも、外観上はそうなる。
最初に奈菜を見たとき、つまりあのコンビニで見かけたとき、「ああ、新しい子が入ったんだな」ぐらいにしか思わなかった。
見るからに学生のアルバイトだという感じもしたし、化粧だってしているかしていないか分らないぐらいだったから、まさに「女の子」という捉え方だったように思う。
それが、どうして、付き合うことになったのか。
哲司は、その点を自己認識したいために、バラバラになっている記憶をかき集めてそれを時系列に並べようとしていた。
「俺って、日記を付けたりするタイプじゃあないし・・・。」
確かにそうなのだ。
小学校の夏休みに宿題として出された「絵日記」への対応が全てを物語っている。
後数日で夏休みが終る頃になって、突然にその宿題を思い出す。
いや、忘れていたわけではないのだから、思い出したもあったものではない。嫌なことから逃げていただけだ。
いずれやらなければならないとは分ってはいるのだが、明日考えよう、と毎日先送りして来たのだ。
それが、残り数日となってから、もうこれ以上は・・・と思う。
それを「思い出した」という言葉に置き換えただけだ。
それでも、何とか新学期の始業式の日には書き上げている。
だが、そこに書かれた『日記』はすべて事実ではない。
確かに、ひとつひとつのことは、夏休みの期間にあったことではあるのだが、日付やその順序はまるでデタラメなのだ。
おまけに、その場面に登場する人物も事実とは異なる。
それほどまでに、実際にあったことですら、時系列では記憶できない性格なのだ。
そんな哲司である。
1ヶ月とちょっとの夏休み期間ですら整理できないのに、数ヶ月前となる奈菜との出会いからを思い出すのは至難の業だった。
だが、今回ばかりは、そうも言ってられない。
宿題と同じで、提出期限が迫っている。
そんな思いから、滅多にしない、メモによる整理をし始めた。
もう、数年前のものだが、工業高校時代に使っていた「電気工学」の授業ノートが大半を空白のままで残っていたから、その後ろ部分をメモ帳代わりにする。
「ええっと、・・・一番最初に会ったのは・・・」
そこから、書き始める。
(つづく)