第3章 やって来たパパ(その76)
店の表まで出たとき、駐車場からなのだろう、乗ってきた車がやってきた。
最初に車のキーを預かった若い男の子が運転をしている。
急なことだったからか、少し慌てていたのだろう、車寄せにつけたとき少し急ブレーキをかけることとなった。
「申し訳ございません。乱雑な留め方で。」
車から降りてきた男の子が侘びを言う。
「いゃあ、いつもいつも丁寧に磨いてくれて、ありがとう。」
奈菜の父親は、そう言って、運転席に乗り込むときに、彼の肩を軽く叩いた。
それだけで、彼は顔がくしゃくしゃになるほど、嬉しそうにする。
「じゃあ、乗ってください。」
運転席に腰をすえた父親が哲司に向かって言う。
「はい。」
哲司も、車の後ろを回って、助手席に乗り込んだ。
店のスタッフらに見送られるようにして、車は元来た道を戻っていく。
「本当に申し訳ない。
こんなつもりではなかったんですが・・・。」
父親は、余程、先ほどの電話が予想外だったようだ。
額に汗が浮いている。
「いえ、でも、今日は、こうしてお話しすることが出来て、僕も良かったと思っています。」
「まぁ、そう言ってもらえると、気分が少しは軽くなります。
こんな飛び込みの仕事が無かったら、もっとじっくりとお話してみたかったんですが・・・。」
「続きは、また今度、ということにしておきましょう。」
哲司は、父親に仕事の事に集中して欲しかったから、そういう言葉で含みを残す。
急いでいるときに、あれやこれやと思い悩んでもらって、事故に繋がっても困ると思っている。
「えっ!本当ですか?」
「・・・何がです?」
「また今度って・・・・。」
「ああ、・・・・はい。
また、声を掛けていただければ・・・。
僕のほうは、時間はたっぷりとありますから。」
哲司は、今度、奈菜と直接話す前に、もう一度この父親と話がしてみたいと思った。
それが、どうしてなのかは、自分でも説明はできない。
(つづく)