第3章 やって来たパパ(その72)
「ど、どうしてそんな質問を?」
哲司は、アパートの前に止めた車の中の父親を思い出していた。
静かに誰かを待っているというだけの感じだったのだが。
「ですから、それは先ほども言いましたとおり、探偵社の調査は調査、それを踏まえて私がどう感じられるかを確かめただけの事です。」
「・・・・?」
「君の事は、あまり良くは書いてありませんでした。
でも、あのアパートの前に行ってみて、意外に秩序があるアパートだと思ったんです。」
「秩序ある?」
「はい。そうです。
一般に、賃貸の建物、つまりアパートやマンションというのは、その所有者や管理者の色が強く出るものだと言われます。」
「実際に住んでいる人間ではなくて?」
「はい。賃貸ですから、確かにいろいろな人、いろいろな年齢層が入ります。
でも、だからと言って、その所有者、つまり家主さんの影響を受けないと言う事は無いのです。
金さえもらえれば、どんな人間だって構わないという家主もいますが、やはり殆どの家主さんは、自分の所有するアパートなりマンションに入居する人物をきちんと見定めているんです。」
「そうかなあ、・・・・・。
でも、僕はあのアパートの家主さんを知りませんよ。」
「いえ、・・・・御存知のはずですよ。」
「契約書には、確か有限会社か何かの名前があったと思いますけれど・・・。」
「その会社を経営されている方をご存知ありませんか?」
「・・・その名前も覚えていませんから・・・・。」
「う〜ん、そうですか。やはり、ご両親がそこまで気配りをされたんですねえ。」
「えっ?・・・・両親って、僕の両親のことですか?」
「そうですよ。
今のアパートも、専門学校に通うというお話があってから決められたんですよね。
ですから、ご両親が探してこられたのでしょう?」
「それは・・・・そうでしたけれど・・・・。」
哲司は、奈菜の父親が、どうしてそこまでを知っているのか、不気味さを感じる。
(つづく)