第3章 やって来たパパ(その70)
「それは、そのスノボーの話しは、あの子にとってはどちらでも良かったんだと思いますよ。」
奈菜の父親は、まるでそれが事実だとでも言うように断定をする。
「えっ?・・・・どちらでも?」
「はい、要は、君との接点となる理由が欲しかったんだろうと。
それが、たまたま君がスノーボードを抱えてきたものだから、それをきっかけとして使った、言葉を変えればそれを旨く利用した。」
「利用した?」
哲司は、父親が言っている意味が分らない。
まるで、奈菜が計算ずくで近づいてきたような言い方だ。
「そうした言い方をすると語弊があるかもしれませんが、あの子は君と近づきたかったんです。何としてでも。」
「・・・それは、僕も同じですよ。
何とか、奈菜ちゃんと繋がりが持てないかと考えていたんですから。」
「君は言いましたよね。
最初の出会いは、アパートの近くのコンビ二だと。」
「はい。」
「そこで、釣銭を間違ったからだと。」
「はい。もし、あの釣銭の間違いが無ければ、顔を見たことがある程度で止まっていたと思います。」
「だとしたら、・・・・・、その釣銭の事件も、あの子が意識的にやったとしたら?」
何を言い出すのか? と哲司は父親の顔を見る。
だが、父親は真面目な顔で言っている。冗談だとか、仮定の話でもないという雰囲気だ。
「まさか・・・・・。」
哲司は、その言葉しか出てこない。
「ですからね、その、まさか、だとしたら、君はどう思います?」
「それはありえないでしょう?」
「いえ、ですから、そうだとしたら・・・との前提です。」
哲司は、答える代わりに、父親の顔と目を覗き込むようにして見つめる。
本当にそのように思っているのか、それとも自分を試そうとそんなことを言っているのか、その判断が付かない。
(つづく)