第3章 やって来たパパ(その69)
「そうですねぇ・・・。
で、でも、それを黙っていたのは、決して悪意じゃないですよ。」
哲司は、自分を弁護する。
「まぁ、確かに、人間には“言いそびれる”という場面はありますからね。」
奈菜の父親も、そこに悪意があったとは思っていないようだ。
「でもね・・・・。」と言葉を続ける。
「でも、今日まで黙っていたと言うのが許せないんです。
確かに、勝手に勘違いをしたのは奈菜かもしれません。
でも、君も、それが勘違いなのだということには直ぐに気がついたでしょう?
だったら、それがあの子の勘違いだということを説明する時間は、君には十分あったと思うんです。
それなのに、今日の今まで、ずっと黙っていた。
それってねぇ、親の立場からすれば、許せないことなんですよ。」
奈菜の父親は、最後の部分をより強く言った。
「そのことについては、僕が悪かったと思ってます。
ですから、お父さんには、素直にそのことを認めたんです。
ただ、・・・・ただ、男からすれば、なかなか言い出しづらいことではあるんです。
奈菜ちゃん本人に向かっては。
それを男のエゴだと言われれば、その通りです。
勝手に勘違いをされた。
その勘違いが前提にあって、旅行にでも行きませんか? と誘われたんです。
言葉はエグイかもしれませんが、シメタ!と思うのは当然ですよね。
そんな好条件が目の前にぶら下がったら、“あれは君の勘違いだ”とはなかなか言えないもんです。」
哲司は、言い訳とも本音ともとれる説明を途切れ途切れにする。
元から頭で整理など出来ていないことだから、それは致し方ない。
ただ、「親としては許せない」と言われた事に対する弁明をしているだけである。
「もし、君がそのように説明をしたら、奈菜が君との話を無かったことにすると思いましたか?」
父親は、哲司が予想もしなかったことを言い出す。
「いゃあ、・・・・・どうなんでしょう?」
哲司は、その当時の自分を思い出そうとするが、そこまで鮮明には思い出せない。
そのように思ったのか、そうではなかったのかも分らない。
(つづく)