第3章 やって来たパパ(その68)
「・・・・・う〜ん・・・・。」
哲司は言葉に詰まる。
決して嘘は言ってはいない。それは自分でも断言できる。
だが、知っていること、奈菜本人からではなくて、第三者から耳にした情報、つまりあのコンビニの店長や喫茶店のマスターなどが話した内容については意識して口にしていない。
それが悪い事だとは思ってはいないが、奈菜の父親の立場からすれば、確かに今指摘されたとおりだろう。
黙っている事も嘘をつくのと同じだと言われれば、言葉が無い。
「奈菜のどこを気に入って頂いたのでしょう?」
父親は、話の方向を変えてくる。
「う〜ん、やっぱり可愛さですかねぇ。」
哲司は出来るだけ素直に答えようと思う。
「可愛い?」
「はい。」
「ただ、それだけ?」
「う〜ん、最初は、それだけで・・・というのが普通でしょう?」
「あの子の性格や趣味とかではなくて?」
「まだ、それを知るところまでは行ってません。」
「でも、あの子はスノボーが共通の趣味だからと言ってましたが・・・。
それは違うんですよね。」
ここへ来るまでの車の中での会話を引き合いに出される。
「ああ・・・・・。それは・・・。」
「だったら、どうして、僕はしないんだと言ってやってくれないんです?
積極的な嘘ではなくても、そうした事実を話していないってことは、結果として誤解を与える事になるでしょう?」
父親は怒りは見せないものの、淡々と諭すように話す。
「・・・・それは、たまたま、言うチャンスが無かっただけで・・・。」
「でも、あの子がそのように誤解をしたということはご存知だったんでしょう?
それを敢えて押し黙っていたというのは、やはり嘘をつくのと同じ事なんじゃないかと。」
ここまでで、哲司の完敗である。
詰め将棋の王手詰めをされているような気がしてくる。
(つづく)