第3章 やって来たパパ(その67)
「・・・・・う〜ん、・・・そうかもしれません。
でも、・・・それはお互い様だと思うんですが・・・。」
哲司は、奈菜の父親の指摘に、きっちりとは反論できない。
部分的にだが、認めざるをえない一面はある。
「ん?・・・・・。
それじゃあ、恋人や夫婦になる場合でも、互いに言わない過去があるし、それが当然だと思うわけ?」
「そりゃあ、全てが話せるのが理想かもしれませんが・・・。」
「現実的ではない?」
「はい、・・・・・そう思います。」
「う〜ん、困ったことになりましたねぇ。」
父親は、急に眉間に皺を寄せるような顔つきになった。
「ど、どうしてです?」
「だってね、そうでしょう?
君は、私と会ってから、奈菜とのことについて嘘はついていないと言ってくれましたよね。」
「はい。」
「でもね、今の論法だと、不味いことは黙っているってことに聞こえるんです。」
「・・・・・確かに、そうは言いましたけれど・・・・。
でも、奈菜ちゃんのことでは、嘘は言っていません。
これは断言します。」
「嘘を言うということは、事実を曲げるということですよね。」
「・・・はい。」
「でも、事実としてあったことを言わないということも、そのことに関心を持っている相手方、この場合は私ですが、にとっては、嘘と同じ意味を持つんです。
言っている事、分ってもらえます?」
「あ、はい、・・・なんとなくは・・・・」
「それでも、奈菜のことについて、その全てを話していただいてますか?
そのように断言できますか?」
「言われている意味が、もうひとつ飲み込めないのですが・・・。」
哲司は、初めて奈菜の父親の迫力を感じた。
だから、このように言葉を濁して一呼吸を入れようとする。
「奈菜のことを可愛いと思っていただけるのは嬉しい限りですが、どうもそれだけの理由ではないような気がするのですが・・・・。」
父親は、珈琲カップを音をさせておいた。
(つづく)