第3章 やって来たパパ(その66)
「どうなのでしょう?
私は、彼もそのことについては承知しているし、きっと、彼女にもその話はしているだろうと思うんです。」
奈菜の父親は、哲司の思いとは別の立場のようだ。
「・・・・そうでしょうか?
例え実家の両親が調査すると言ったとしても、そんな事は必要が無い。
僕の結婚相手は自分で決める、と言うのが普通でしょう。」
哲司は、同じ男性としての立場で言っている。
「君だったら、やはりそのように言いますか・・・・。」
「いえ、僕だけじゃあないですよ。
今の若い世代であれば、誰でもそう言います。
自分で選んだ結婚相手を、例え両親であっても、生まれや育ちの事でいちゃもんを付けられるなんて、絶対に我慢できません。
どうしても・・・とまで言われたら、家を出てでも結婚しますからね。
親なんて、最後は関係が無いんです。
結婚は、2人だけの問題ですからね。」
哲司は、一気に話した。
「まぁ、それもひとつの考え方、ひとつの生き方ではありますが・・・。」
「それが普通だと思いますよ。」
「う〜ん、その普通と言うのは、そうした考え方で結婚をする人が多くなってきたということを意味するならば理解しますが・・・・。」
「うん?・・・・お父さんは、それは違うと?」
「何が正解で、何が間違いだと断定は出来ません。
人にはそれぞれ自分の生き方、考え方を選ぶ権利はありますからね。」
哲司は、少し苛立ってくる。
「今では、就職するときにだって、本籍地などは書かなくても良いと言われるぐらいなんです。
それが、結婚するのだからと言っても、生まれてから今日までの諸々を根堀葉堀調べられるなんて、人権蹂躙もいいところでしょう?」
「どうなのでしょう?
確かに、調べられると不味い、つまり隠しておきたいことまでが明らかにされるという点においてはそうした考え方も理解できます。
ですが、そうしたことも含めて、その人なのではないですか?」
「でも・・・・・。」
「だったら、君は恋人に自分の全てを話さないつもりなんですね。
隠しておきたいことは、とことん黙っている。そういうことですね?」
父親は、改めて「奈菜の父親」の顔を見せる。
(つづく)