第3章 やって来たパパ(その61)
「と、言うと?」
哲司は、普通の職場結婚というものさえよくは知らないのだから、突然に普通の職場結婚ではないと言われても、どこがどのように違うのかも分らない。
「まあ、細かいことは別にして、兎も角も、周囲からおめでとうと普通に祝福されるものではなかったということです。」
「反対される人がいたということですか?」
「それもありましたけれど、周囲から、とりわけ同じ職場の仲間からも、どうして?と疑問符が付けられるような有様でしたからね。」
「何か、ややこしそうですね。」
哲司は、その言葉で集約した。
この先の話は、聞いて見たい気もする一方で、知らないほうが楽かも知れん、という計算も働いた。
「家内が、つまり、奈菜の母親が火事で死んだという話しはご存知なのでしょう?」
奈菜の父親は、一足飛びに夫婦の終わりのところへと話を移す。
「はい、それは・・・・。」
哲司は、この話もあのマスターから聞いただけで、奈菜からは詳しい事は聞いていない。
だから、敢えて、誰からという言葉を省略する。
ただ、その火事で母親が死んでから、奈菜と父親の関係が不味くなったと聞かされているのだから、その部分については、是非とも父親側からの説明は聞いておきたかった。
「奈菜ちゃんと一緒に実家に里帰りをされているときに火事があったそうですね。」
哲司は、事実関係だけを口にして、話を進めようとする。
「はい、私がヨーロッパへ出張していた時ですので、里帰りをしたいと言われて了解をしたんです。
ですが、それが、あんな事になるとは、まったく思っても見ませんでした。」
「幸いにも、奈菜ちゃんは助かって・・・・。」
「同じ2階に居たそうですが、奈菜が気づいたときには、もう辺りは火の海だったと聞いています。
自分のことで、精一杯だったと。
2階の窓から飛び降りて、奇跡的に、足首の捻挫だけで助かりました。」
「でも、お母さんは・・・・・。」
「はい、・・・・残念なことでした。
でも、私は、今でも、どうしてなんだ?という疑問は残っているんです。」
「・・・・それは、どういう・・・?」
哲司は、父親が何を言いたいのか、よく分っていない。
(つづく)