第3章 やって来たパパ(その59)
「探偵社と言っても、やはり調査して報告書を書くのは人間なんです。
客観的事実に基づいているとは言っても、そこには書く人間の思い込みが入りますからね。」
奈菜の父親は、報告書に書かれていたことが事実と違っていたと感じているような言い方をする。
「その報告書を見せてくださいとは言いませんけれど、相当に厳しい評価がされていたんでしょうねぇ。」
哲司は、他人に「実力以上の評価」をしてもらった経験はない。
「う〜ん、先ほど言った、社会の常識という名の下での思い込みが強いですね。
ですから、今日、こうして直接、お話ができて良かったと思うんです。」
「例えば?」
「簡単なことです。
客観的な事実、ひとつは、君が働いていないってこと。
それは事実なんでしょうけれど、その事実だけで社会的な敗北者だと思われているんです。」
「報告書に、そのように?」
「はい。今、社会的な問題と言われているニートやフリーターの一人だと。
それだけで、“社会に適応できないタイプ”だと断定していましたね。」
「そうですか・・・・・。」
哲司は、ある程度覚悟はしていたものの、探偵社の報告書というものがそこまで、つまりその人間性まで踏み込んでなされることに少なからず驚いた。
「でも、私は、最初から、この報告書は報告書として、自分の目で確かめてから・・・と考えていましたからね。
ですから、今日、こうしてお会いできて良かったと・・・。」
「で、でも、そう思われるのでしたら、どうして探偵社なんかを・・・?」
哲司は、その点が不満ではある。
調べるだけ調べておいて、それは最初からあまり信じてはいない、と言われても、そう簡単に「そうですか」とは納得できるものではない。
「家内の実家から強く言われましてね。」
「えっ?」
「つまり、奈菜の祖父から、そうした男がいるのであれば、やはり事前に調べておくだけの準備は必要だろうと。
万一にも、相当な悪であれば、何を言われるか分ったものじゃないからと。」
哲司は、あのマスターの顔を改めて思い浮かべる。
「あの家は、昔から、そういう傾向があるんです。
私も、調べられた口ですから。」
父親は、少し自虐的な言い方をした。
(つづく)