第3章 やって来たパパ(その58)
「ですが・・・・・?」
哲司は、そこで止められた言葉の行き先が気になる。
「もう一杯、飲みませんか? 珈琲。」
哲司の気持をはぐらかすように、奈菜の父親は空になった珈琲カップを軽く持ち上げるようにして同意を求めてくる。
「・・・・はい。
え〜と、・・・・同じもので良いんですよね。」
哲司は、そう言いながらも、既に電話を掛けようと席を立ち上がっていた。
先ほどと同じ要領で、2人分の珈琲を頼む。
どうやら、これまた先ほどの女性が出たようだった。
前園さんである。
哲司は、その話の先が知りたいから、手短に注文を済ませて急いで席に戻る。
「いゃあ、今日、思い切って君を誘って良かったですよ。」
奈菜の父親は、わざとなのか、視線を窓の外へ移動させてからそう言った。
「・・・・いえ、僕のほうこそ・・・です。」
哲司は、同じ思いだと言いたかったのだが、うまく言葉に出来ない。
「実はねぇ、数日前から、悩んでいたんですよ。」
「何をです?」
「君に会うために、一体どうすれば良いのかってね。」
「・・・・そうだったんですか。」
「で、今日、たまたま休みを貰えたので、思い切ったんです。
来週からまた出張などで、そうそう休みが取れないもので。」
「そうですか、それで、どうでした?」
「どうでした、とは?」
「こうしてお話をする以前と、実際に会ってからの印象です?」
「君の印象、ですか?」
「はい。」
「そうですねぇ、話しやすい人で良かったと思っています。」
「以前は、そうは思われていなかった?」
「う〜ん、まずは、前提に、あの子を騙しているんじゃないのか?と疑っていましたからね。
それと、圧力、つまり本当のことを私に言わないようにと、圧力をかけていると思っていたものですから。」
「・・・・相当に、悪く思われたものですね。」
「その点は、素直に謝りますよ。
でも、探偵社の調査結果報告書を読むと、そうせざるを得ない内容でしたから。」
「探偵社・・・ですか。」
哲司は、あのマスターが言っていた興信所の話しはしないほうが良いだろうと直感的に思った。
(つづく)