第1章 携帯で見つけたバイト(その16)
「よし、やるぞ!」
哲司は少しだけやる気が起きてきた。
ともかくも3時間動けば金にはなる。
それを今日「日払い」でもらう約束だ。
受領印を押すための印鑑もちゃんと持ってきている。
もちろん、100円均一で買ったものだ。
そこに、ふたつの楽しみが増えたのだ。
だから、俄然、元気が出る。
哲司は周囲を見渡した。
ゴミのなかで、使えるものを探している。
かと言って、そうしたものを頂戴していこうというのではない。
今からする作業に便利なものを探している。
「おっ!あった。」
ポスターの余ったものである。
それを見て、「ああ、ここはプロダクション事務所だったものな」と思う。
そのポスターを3枚ほど引っ張り出してくる。
大きな「塵取り代わり」にするのだ。
本当は、薄い目のベニヤ板がいちばんいいのだが、あいにくここには見当たらない。
だから、このポスターを代用するのだ。
こいつを広げて両端を持って床を押していく。
大きなゴミはひとつひとつ手でも拾えるが、細かなものまで同じようにしていると、とてもじゃないが時間がかかりすぎる。
だから、これである一定のところに寄せてから、袋に入れるのである。
こうしたやり方も、過去のバイトで知ったものだ。
他の奴がやっているのを見て、「なるほど」と思ったのだ。
俗に言う「学校では教えない知恵」である。
まずはそれを準備しておいてから、そこいらあたりに散らばっているゴミを注視する。
作業を指示した香川主任は言わなかったが、今や、産業廃棄物でも、家庭から出る一般ゴミも、分別収集が当然である。
哲司がいる市でも、同様の制度が導入されている。
引越しを請け負う会社の人間が、そうしたことを知らない筈は無いのだが、なぜかしら香川主任はそれを明確に指示しなかった。
「初めてだ」というバイト2人なのにである。
その分別は必ずしておかなければ、廃棄物処理業者が受け取りを拒否するのだ。
それも、過去のバイト経験で知っていた。
だから、ここでも必ず「分別」が求められる。
言われなかったからといって、何もかもを一緒に袋に詰め込んだら、後で「やり直し」をさせられるに決まっている。
それでもそれなりの時間給をくれるのならまだしも、殆どの場合、「それはお前が悪いのだから」と、結局は無給でさせられるのだ。
「そんな事になってたまるか!」
哲司はその思いがあって、自らの知恵で分別をしようと考えていた。
そして、もうひとつ。
「山田には教えてやるものか」という意思が働いていた。
(つづく)