第3章 やって来たパパ(その57)
「そんなもんなんですかねぇ?」
哲司は、言葉としては理解できるものの、どこか自分の感情との間には微妙なずれがあるように思う。
「そうでしょう?
誰が、好き好んで、既に成人した息子に仕送りをします?
表向いての使途なんてどうでもいいのです。
この仕送りが、君の生活の助けになれば・・・との思いなのだと。
これが、ファン心理、つまり親心以外に説明が付きますか?
赤の他人であれば、絶対にしないことです。」
奈菜の父親は、同じ親としての立場からか、その点は強く言い放った。
「どうして、そこまでするのでしょうねぇ?」
「それは、君がご両親の大切な子供さんだからです。」
「大切?」
「はい、例え他人からどう言われようが、愛すべき子供であることは間違いが無いんです。」
「僕のように、親の言うことをまったく聞かなくてもですか?」
「う〜ん、昔から言うじゃないですか。
頼りない子供ほど可愛いものだと。」
「頼りない・・・・・ねぇ。」
「親は、子供が幾つになっても、親を忘れないものです。
20歳になろうが40歳になろうが60歳になろうが、親はいつまでも親で、その子供はいつまでも頼りなく思うものなんです。」
「奈菜ちゃんのことも、そのように思われますか?」
「はい、まったく同じことだと。
まぁ、これもこの年になったからこそ言えるのだと思いますが、奈菜は1歳のときも、5歳のときも、15歳のときも、そして今も、私にとっては、頼りない子供なんです。
ですから、親である私が守ってやらなければ・・・との思いが強いのだろうと思います。」
「でも、奈菜ちゃんは、もう高校生ですし、もう一人の個性ある人間として成長しているんではないですか?」
「はい、確かに、社会一般的にはそのように捉えられると思います。
でも、それは君もまったく同じなんですよ。」
「えっ!・・・・僕も?」
「そうでしょう?
奈菜の場合は、大きくなったとは言ってもまだ高校生です。
未成年でもあります。
その点、君の場合は、既に成人している。
だから、そうした社会常識から言えば、大学にでも行っているのでなければ、普通は働く社会人なんです。
今、君が言った社会一般的には、そのように捉えられる。」
「・・・・・・・・・」
「確かに、個人個人の事情があることですから、一般的な物差しだけでその人を評価するのは誤った結果を招きます。
ですが・・・・・・。」
奈菜の父親は、そこで残っていた最後の一口の珈琲を飲み干した。
(つづく)