第3章 やって来たパパ(その54)
「それは、サッカー選手でも同じでしょうね。
好きだけではプロにはなれない。」
「そ、そうでしょう?
だから、フランスへ行きたくなったんです。」
「?」
「言っていること、分かりませんかねぇ?」
「はい・・・・・もうひとつ。」
「一生かけて、ある特定のチームを応援することも、ある意味では素敵なことだと思うんです。夢もありますしね。
でも、・・・・それは、自分自身の夢じゃない。
自分が勝手に思いを込めているチームなり、選手なりに、ある意味では全てを託したことによる夢なんですよね。
心を込めて応援するぐらいしか、自分としては力の出しようが無いんです。」
「ファンというものは、そういうものじゃないんですか?」
「そうなんですよね。
私が後楽園に通ったのも、まさしく、そのファン心理だけだったんです。
でも、仮にジャイアンツが優勝したとしても、嬉しいに違いはないのだけれど、自分自身としては達成感があるのだろうか?なんて考えたり。」
「それはそれでハッピーなんじゃないですか?」
「野球が好きで野球を見に行く。
それはそれで意味のあることだとは思いますが、その前で行われるプレーは、決して自分のプレーじゃない。
凄いなあ、立派だなあ、旨いなあ、さすがだなあ・・・・。
そう言った感嘆詞ばかりなんですね。
その根底には、やはり憧れと言うか、羨望の気持があるんだと思うんです。」
「それは、確かにそうですね。
サッカーで初めてマラドーナを見た時には、声が出ませんでしたからね。
どうして、同じ人間なのに・・・、と思いました。」
「それなんです。
その、マラドーナにしても、イチローにしても、天才だと他人は言いますけれど、やはりその過去を詳しく見てみると、やはり他の人とは違うんですね。
もちろん、持って生まれた天性の才能、運動能力というものがあるのだとは思いますが、それを見つけ出した周囲にいた大人たちの存在を忘れてはならないだろうと思うんです。
そして、そうした人達の声を真摯に受け止めて、自分なりに努力をした結果が、あのようなスター選手への道を切り開いたんだと思うんです。」
「まあ、言われればそのとおりなのでしょうけれど・・・。」
「で、私もね、料理が好きだと言うだけではなく、だったら、一度、自分のその好きの度合いがどの程度なのかを確かめたいと思ったんです。」
「ああ・・・、それでフランスなのですか?」
哲司は、ようやくそこに辿りついた。
(つづく)