第3章 やって来たパパ(その51)
「あははは・・・。ちょっと飛躍しすぎですかねぇ。
でも、野球を見に行っていて、フランスへ行きたくなったのは事実なんですよ。」
奈菜の父親は、当時を思い出すのか、少しにっこりとした。
「野球を見ていて、どうしてフランスなんです?
まさか、フランスの選手いたわけでもないでしょう?」
哲司には、どうしてもその2つが結び付けられない。
「野球って、あの球場に行って見ていると、凄く盛り上がりますよね。
大抵は、どちらかのチームを応援しながら見るのでしょうけれど、贔屓にしている選手だと、その一挙手一投足に感動するものです。」
「そうですねぇ。現代で言えば、アメリカへ渡ったイチローや松井と同じ立場なのでしょうけれど・・・。」
「私は、確かにジャイアンツが好きで後楽園球場に通っていたと思うのですが、だからと言って特に贔屓にしている選手がいたのでもないんです。」
「へぇ・・・じゃあ、なぜ?」
「う〜ん、今だから言えるのかもしれませんが、当時の監督の采配が好きだったです。
確か、名前は・・・・・。ピッチャー出身の・・・、ほら・・。」
「昔の事は、よく知りません。」
「野球は、チームで戦う競技ですよね。
投手力も大切ですし、もちろん打撃力も必要です。
でも、やはり、チームでやる以上、最後はチーム力の優れたところが勝つものだと思うんです。」
「まぁ、それは確かなんでしょうけれど・・・。
でも、やはりイチローや松井のようなスター選手は重要ですよ。
ここぞというところで活躍しますからね。」
「そうそう、そうなのですけれど・・・・。
でも、そのイチローをあのチームの監督が一番バッターとして起用し続けるからこそ、あのような成績が残せるんだと思うんです。
もちろん、彼の身体能力や野球センスというものがあってのことだとは思いますけれど、それでも、彼がずっとベンチにいる控えの選手として起用されていたとしたら、今日のような名選手の称号は受けられなかったと思うんです。」
「なるほど・・・・、そういう考え方も・・・。」
哲司は、どうしてこんな話になって来たのかが分らなくなってきた。
「ですからね、当時でも、ジャイアンツの一流選手がホームランを打ったりすると、球場全体が総立ちになるんですよね。
我が事のように身体全体で喜ぶんです。」
「それは、今のサッカーでも同じ事です。
一流と言われる選手がゴールを決めると、そりゃ大変ですよ。」
「そ、そうでしょう?」
父親の目が、キラリと光ったように見えた。
(つづく)