第3章 やって来たパパ(その50)
「そう、見えますか?」
哲司は、まさにそう見えると言われたと意識している。
「いえ、他人からどう見えるかではなくて、君自身がどのように思われているか、それが聞きたいんです。」
奈菜の父親は、哲司の感情に気づきながらも、そう言って追ってくる。
「遊んで暮らしているとは思っちゃいませんよ。
そりゃあ、人からはどのように見えるのかは知りませんけれど、とてもそんな状況ではありませんし・・・・。」
「でも、先ほどおっしゃったように、ご両親からの仕送りで生活をされている。」
「それはそうですけれど・・・。」
「でも、遊んだりはしていない?」
「遊んでいるなんて、考えた事はありません。」
「それじゃあ、君の楽しみって何です?」
「・・・・・・ゲームをしたり、サッカーを見たり・・・。」
「ゲームセンターですか?」
「いえいえ、そんなところはもう卒業しました。」
「卒業?」
「そうです。中学辺りから、友達とよく行くようになって・・・。
でも、もう行ってませんよ。」
「どうして?」
「・・・・・・う〜ん、第一には、そんなお金がないってこと。
で、次は、・・・・・昔ほど、面白くはないってことかな。」
「サッカーはやらないんですか?」
「学校の授業でやっただけです。」
「でも、お好きなのでしょう?」
「サッカーの試合を見るのは好きです。」
「どうして、サッカー、されないんです?」
「好きじゃないから・・・かな?」
「見るのは好きでも?」
「それって、誰しも同じことでしょう?
僕のオヤジも野球ファンですけれど、自分ではやったりはしません。」
「どこのファンです?」
「巨人です。王や長島の世代ですから。」
「そうですか、僕も、昔は後楽園球場に足を運んだ口ですよ。
でも、2年ほどで、行かなくなりました。」
奈菜の父親は、少し遠くを見るような目をしていた。
「どうしてです?」
「何がです?」
「その、後楽園球場に行かなくなった理由です。」
「ああ・・・・。それねぇ。
野球を見ていて、フランスへ行きたくなったからです。」
「ええっ?・・・・野球とフランス?」
哲司には、その意味が分らない。
(つづく)