第3章 やって来たパパ(その48)
「自由って素敵なものだと思いますよ。
ただね、自由って言うのは、権利なんですよね。
日本国憲法にもちゃんと書かれているんです。
思想や宗教の自由、表現の自由、学問の自由、職業選択の自由を保証するって。」
「でも、それだったら、今に始まったわけじゃないんですよね。
今の憲法って、戦後に出来たものですから、僕の両親を含めて戦後生まれの人達も、同じ権利を持っていたということなんでしょう?
それだったら、急に、僕らの世代だけが、極端に自由になっているというのは違うんじゃないんですか?」
哲司は、言葉の上では自分の両親を持ち出したが、言い換えれば、あなたもそうなのですよね、と言いたかったのだ。
「いえ、君やうちの奈菜の世代だけが急激に自由になっているなんては、考えちゃいませんよ。」
「で、でも・・・・・。」
「そう取られたのなら謝りますが・・・・。
さっきも言いましたが、自由というのは権利なんですよね。
つまり、その裏返しには、義務があるんです。」
「義務?」
「そう、義務です。
自由を保障するっていうのは、何でも自分の好き勝手にしていいよってことじゃないんです。
その代わりに、ちゃんと義務を果たしてくださいねっていう制約もあるんです。」
もちろん、哲司には憲法論を議論するだけの力量はない。
第一、そんな「自由とは」などと考えてみたこともなかったのだ。
だが、今、「義務」という言葉を聞かされて、ふと「そんな言葉もあったよな」という気がしている。
「じゃあ、僕は権利だけを行使していて、その言われる義務を果たしていないと?」
「いいえ、そこまで断言はしません。
けれども、少なくとも、君のご両親からすれば、自由という権利は行使しているけれど、20歳を過ぎて大人の仲間入りをしたにしては、それに見合うだけの義務を果たせていないと思われるでしょうね。」
「ど、どうして、です?」
哲司は、両親の立場を持ち出されることに苛立ちがある。
「確かに、職業選択の自由は保障されています。
つまり、どんな仕事に就くのかは、その人の自由で、誰からも強制はされないってことです。
でも、それは、好きな仕事がなかったら、働かなくてもいいですよってことじゃあないんですよ。
このことは、分りますよね。」
奈菜の父親は、まるでチェスでもするかのように、次々と手を打ってくる。
(つづく)