第3章 やって来たパパ(その46)
「う〜ん、・・・・・。
やっぱり、うちの両親と同じことを言われるんですねぇ。」
哲司は、少なからず落胆をした。
実は、先ほど、奈菜の父親の口から、「シェフになりたかった」と聞かされたとき、それだったら、自分の両親よりは話が分るかも、と多少の期待があったのだ。
だが、やはり、親の立場ともなれば、どこの親も似たような考え方になってしまうものなのかもしれないと思ったりする。
「大学に行く意味って、そんなことなんですかねぇ?」
哲司は、両親に向かって言った言葉を、またここで投げている。
「いや、もちろんそれだけじゃない。
高度な専門教育が受けられるし、それだけ人間が大きくなる。」
父親も、自分の言い方に足りないものを感じたのか、それを補おうと言葉を重ねてくる。
「そりゃあね、勉強が好きで、成績も良くって、その得意分野をさらに伸ばしたいと思っている人が行きたいと思うのは分りますよ。
でも、世の中には、そうは思わない奴も沢山いるんだと思うんです。
僕のように、勉強は大嫌い、したがって成績も悪い。
そんな人間が、その大学とやらに行って、一体どんな意味が在ると言うんです?」
「意味ですか?
それが分っているから行く人もおれば、その意味を探すために行く人もいるんじゃないですかねぇ。」
「えっ?・・・・大学に行ってから、それからその意味を探すんですか?」
「はい、そういう人もいるだろうし、いても構わないと思うんですが・・・。」
「でも、探すつもりで行っても、結局は見つけられずに卒業したりして・・・。」
「もちろん、そんな人もいるとは思いますよ。
でも、それは、その人の人生において無駄ではない筈なんです。」
「嘘でしょう!・・・・それだったら、明らかに無駄な時間を過ごしたことになりませんか?
結果としては、大学へ行っても行かなくっても同じことだったんですから。
だったら、その時間、好きなことでもして遊んでいた方がよっぽど良かったと思いませんかねぇ。」
哲司としては、この部分はあくまでも想定論である。
大学へは行かなかったのだから、実感も何もあったものではない。
「だったらね、君は、中学から高校へ行くときに、どんな気持で行ったんです?」
奈菜の父親も、それに気がついたようだ。
行ってもいないところの話をしても・・・と思ったようで、哲司の経験の範囲内で話を再構築する。
「それは・・・・・・。」
哲司は、そう言いかけて、言葉が止まってしまう。
(つづく)