第3章 やって来たパパ(その43)
「親の立場って、一体何なのでしょうねぇ。」
奈菜の父親は、呻くように言った。
哲司は、その問いが自分に向けられたものではないことは分っていた。
だから、黙っている。答えるつもりも、答える立場にいるとも思わない。
「君のご両親も、今の私と同じことをお感じなのでしょうねぇ。」
父親は、哲司が答えないからか、一歩踏み込んだ言い方をする。
「どうなのでしょう?
もう、諦めているんじゃないかとは思いますけれど・・・。」
「そ、そんなことは・・・。
そんなことは、絶対にないと思います。」
「そうでしょうか?」
「親というものは、そのようなものです。
例え、自分の思惑通り子供が育たなくても、だからと言って諦めたり、放り出したりはしないものです。出来ないものです。」
「・・・・・・・・・・」
「だからこそなんですよ。君に仕送りまでするのは。」
「でも、それは、さっきも言いましたけれど、親の一方的な考えです。
僕から頼んだことではないですし。」
「う〜ん、君はそうは言うけれど、だったら、その仕送りを断れば?
言われている専門学校にも通ってはいないし、もう要らないからと。」
「・・・・・・・・・・・」
「ねっ。それは出来ないでしょう?
例え、君自身がそのように希望したのではないとしても、現実的に毎月送られてくる仕送りは、君の役に立っていることは間違いがない。
どこかで、それをあてにしている気持もあるでしょう?」
「・・・・まあ、・・・・確かに。」
「それを甘えているとは言いません。
君がご両親を騙してまで受け取っているものではないという言葉を信じれば、今の現状をご両親も薄々はご存知なのだろうと思うからです。
でもね、それって、少し残酷な気がするんです。」
「残酷?」
哲司は、奈菜の父親の口から、そんな言葉が出てくるとは想像だにしなかった。
「嫌な言い方かもしれませんが、親の立場からすれば、非常に残酷な感じがします。」
「どうして?」
「いいですか、よく考えてくださいね。
君のご両親は、君にちゃんとした仕事についてほしいと願っておられる。
そうですよね。」
「・・・・・・・・・・」
哲司は、それに対しては、言葉ではなく、首を縦に振ることだけで答える。
(つづく)