第3章 やって来たパパ(その42)
「ああ、それでなんですね。」
哲司は、簡単に答えを考えた。
ここのシェフと今の彼女が結婚をする。
だから、奈菜の父親は、そうした2人に「祝い」のつもりであのような提案をしたのだろうと素直に考えたのだ。
だが、奈菜の父親は、黙ってにっこりと笑っただけだった。
「ところで、話を戻しますが・・・・。」
父親は、同じようにしてミルクを少しだけ入れて珈琲をかき混ぜながら話し始める。
「はい。」
哲司も、それなりに姿勢を正そうと座りなおした。
「私が知らない奈菜がいて、君が知らない奈菜もいるって言いましたよね。」
「はい。」
「それって、君もあの子のことをよくは知らないのだ、と聞こえるのですが・・・。」
父親は、「自分が知らない娘」と言われた部分は一旦横においての質問をする。
「そうです。殆ど知らないと言えると思います。」
「で、でも、付き合うつもりなのでしょう?」
「はい、一応は。」
「一応?」
「はい、一応です。」
「・・・・・・・・・・・・」
「う〜ん、その一応というのは?」
「分かり易く言えば、友達から始めましょうって所ですか?」
「・・・・でも、奈菜のことは好きなんですよね?」
「はい。」
「それでも、あの子のことは殆ど知らないと?」
「はい。」
「それこそ、嘘じゃないですか?」
「いいえ、嘘なんか、これっぽっちも言ってません。」
「じゃあ、よくは知らない子を好きになって、だから付き合うと?」
「はい、その通りです。」
「誰の子か分らない子がお腹の中にいても?」
「う〜ん・・・・・・、はい。」
「その辺が、よく分からんのです。」
「それは、僕自身でも、説明はしにくいです。」
「それが普通ですか?」
「・・・・普通かどうかは・・・・・。」
「それが、あの子でなくても、君は同じように思うんですか?」
「う〜ん・・・・・、それは分りません。なって見ないと。」
哲司は、こうした話し方のほうが、本音で素直に話せると思った。
(つづく)