第1章 携帯で見つけたバイト(その14)
哲司は言われた作業がよく分かる。
何度かこうしたことをやっていたから、「やはりな」という思いである。
引越し作業というのは、機械化が進んだと言っても、やはりまだまだ人力に寄る部分が大きい。
つまり人手が必要となる。
だが、それでも、頭数だけ揃えれば事足りるというものでもない。
引越しは『技術』である。
その作業に従事する人間は、言わば『職人』なのだ。
それを束ねて、統括して、組織として動かせるのが、良い引越し業者ということになる。
だから、テレビでも、マスターだのマイスターだのと、今時の若い世代にも来てもらえるような名前を付けてはいるが、根本はやはり個人が持つ技術力なのだ。
そうした『技術』を必要とする引越しなのに、どうして哲司のようなアルバイトが雇われるかである。
それは、考えたらごく簡単なことなのだ。
『技術』も何も必要としない、言わば「雑用」が山ほどにあるのだ。
そのひとつが、いま、香川主任から指示された作業である。
「まあ、仕方あるまい。」
哲司はそう思った。
「返事は!」
機嫌の悪い香川主任は、2人のバイトに八つ当たりをする。
「はい。分りました。」
哲司は逆らわない。素直に答えておく。
だが、あの「シカトオタク」の山田は相変わらずだ。
「俺は知らねぇぞ。」
哲司は内心そう思って、山田と香川の両方の顔を交互に見ている。
「おい、山田!・・・・分ったのかって訊いてるだろ!」
香川主任の顔が紅潮してくる。
その顔を見て、山田はようやく「うん」とだけ答える。
「うん、じゃない!・・・はい、だろうが。」
漫才のようなやり取りになる。
幾ら言われても、山田は期待した反応を示さない。
それでなおさら香川が突っ込む。
「いいか、ここが終わったら、その後はこのフロア全体のゴミもだ。
どれだけ出てくるか分らんが、兎も角、午前中にはこの部屋を空っぽにしなけりぁいかん。
とっとと、かかってくれ。」
もうこれ以上、あのへんてこりんな山田に関わってはおられん、というような顔をして、香川主任がその場を離れる。
「じゃあ、初めよか。」
哲司は宣戦布告のつもりでそう言った。
(つづく)