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第3章 やって来たパパ(その36)

哲司は、その女性の手さばきをじっと見ていた。


別に、特別な珈琲の入れ方をしているものでもない。

そして、じっと見つめるほど、面白いものでもない。


なのに、哲司はその手が動くのをじっと眺めていた。



サイホンを使うようだ。

珈琲の入れ方は、喫茶店や珈琲専門店でもそれぞれに独自のやり方を持っている。

珈琲は好きな哲司だが、そうだからと言って、この入れ方でなければならない、と言う様な薀蓄めいたものがあるものでもない。

いろんな入れ方があって、そしていろんな味があるものだと思うだけである。


出されたものを口に入れてみて、舌のうえで転がしてみて、そして最後に喉を通してみて、それで旨いと感じればそれでいい。

自分の体調もあるだろうし、その時の気分もある。

そうしたものに左右されて、その珈琲の味は飲み手に評価されるのだ。


だから、たまたま、気分や体調が悪いときに当たれば、どんなに上手な入れ方をした珈琲であっても、それは不味いものとして意識される。

運、不運もある。


そんなことをぼんやりと考えながら、哲司は女性が珈琲を入れていくのを見つめていた。



その指先を見ていて、今、ようやく気がついたことがあった。

サイホンで入れる珈琲の分量もそうだが、湯に浸されたて温められた珈琲カップもひとつしか出されていない。


「珈琲、確か、2人分、言いましたよね。」

哲司が心配になってそう言った。


「はい。そのように承っておりますが・・・。」

その女性は動じない。


「で、でも・・・・・」

ひとつしか入れてないじゃないの、という言葉は飲み込んでいる。


「田崎様はまだお食事をされておられますから・・・・・。」

その女性も、その後の言葉は敢えて口にしない。


「ああっ!・・・・・」

哲司は、それだけしか言えなかった。

この女性は、2人分を準備はしてきたものの、2人の食事の状況を見たうえで、哲司の分だけを先に入れて、父親の分はもう少し後で入れるべきだと考えたようである。


哲司は、顔が赤くなるのを感じた。



(つづく)




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