第3章 やって来たパパ(その34)
「ですからね、君の食べ方を見ていて、う〜ん、これは・・・、と思ったんです。」
父親はステーキをナイフとフォークを使って口に運びながら、そう言った。
「それは・・・・?」
どういうことなのか?という言葉は途切れているが、哲司はそのつもりで訊いている。
「嘘で塗り固めているのだったら、あのような自然な食べ方は出来ないものだろうと。
だから、君の言葉を一応は信じようと思いました。
ただし、一応、ですよ。」
奈菜の父親は、少し笑みを浮かべて、そう念を押した。
「つまりは、僕が言っていることが事実だと信じていただけるってことですね。」
哲司も、重ねて確認をする。
「はい。」
口に物が入っているらしく、父親は、短くそう答えただけだった。
「そうだ、良かったら、珈琲を注文してください。
そこの電話で言えますから。
ここの珈琲、専門店ではありませんが、それなりにお奨めできますよ。」
父親は、哲司が手持ち無沙汰なのをみて、食後の珈琲を勧めた。
哲司は、素直にその言葉に従うことにする。
食後の珈琲は好きである。
ましてや、今日は、あれだけ旨いと思えるステーキをご馳走になったのだから、仕上げもちゃんとしたかった。
それで、満足度が一段と上がるだろう。
哲司は、自分で立って行って、部屋に備え付けられている電話を掛ける。
受話器を上げただけで、どこかへ繋がるタイプのようだ。
「はい、フロントでございます。」
女性の声である。
「あっ、・・・済みませんが、珈琲を。」
「はい、珈琲でございますね。お2人分でよろしゅうございますか?」
哲司は、振り返る。
「お父さんの分も一緒に言いましょうか?」
哲司は気を使ったつもりである。
「そうだなぁ、・・・じゃあ、一緒で。」
父親は、自分の食べるスピードを考えたようだったが、結局はそう答えた。
「では、2人分でお願いします。」
「はい、直ぐにお持ちいたします。
前園がお伺いいたしました。」
フロントの女性は、最後に自分の名前を名乗って電話を置いた。
(つづく)