第3章 やって来たパパ(その33)
「いゃあ、・・・・そこまでは・・・。」
さすがに、哲司もそれはまずいだろうと考えた。
その旨さに我を忘れるようにして食べつくしたが、まさか父親の分までを頂戴するわけには行かない。
腹の感触からすれば、まだ入りはするが、それはあまりにも常軌を逸する。
だから、心残りだが、やんわりとお断りをする。
「いいんですよ。食べていただけるのでしたら、喜んで。」
父親は、自分の前にあったステーキが乗った皿を両手で動かそうとした。
「いえ、本当に、もう。」
「ご堪能いただけました?」
「はい、もちろんです。」
「そうですか?遠慮はしないでくださいよ。
お若いのですから、まだ入るでしょう?」
「いえ、・・・・もう、本当に。」
まだその旨いステーキに未練はあるものの、哲司はある程度お腹に物が入ったことで、落ち着きを取り戻していた。
常識的な会話が出来るようになっていた。
「う〜ん、どうやら君の言っていることが正しいようですね。」
ようやく自分の皿のステーキにナイフを使い始めた父親が口を開いた。
「えっ?」
哲司は、突然のように話を元へ戻されたことに戸惑いを感じる。
「いえね、ですから、一連のお話は、君が言っていることがどうやら正しいことのようですな、と言ったんです。」
「はい、・・・・?」
いきなり肯定されても、「ほれ見たことか」とも思えない。
「どうして、そのように思っていただけるように?」
先ほどから同じことの繰り返しを言ってきた。
車の中から、そして、この店に着いてからも。
だが、何度繰り返していても、「信じられない」の一点張りだった。
なのに?どうして、急に?
哲司の単純な疑問である。
「こんなことを言うと、そんな馬鹿な、と言われることもあるんですが・・・。」
「はい。」
「人の物の食べ方って、その人の本質が出てくるんですよね。」
「そうなんですか?」
「はい、これは海外でシェフの勉強をしていて気がついたことなんですが、人間は寝ているときと食べるときが最も無防備なんです。
つまり、その人の地が出るものなんです。」
「へぇ〜、そうなんですか?」
哲司は、父親が何を言わんとしてるのかさえ、まったく分らなかった。
(つづく)