第3章 やって来たパパ(その31)
「お父さんって、面白い人なんですね。」
あまりに楽しそうにやるので、つい哲司がそのように言った。
「えっ?・・・・そうですか?
う〜ん、・・・それって、褒めてもらっているのかな?
それとも・・・?」
父親は料理の盛り付けの手を止めることなく、そう返してくる。
「う〜ん、どうなんでしょう?」
「でも、それは君が言ったんですよ。」
「まあ、それはそうなんですけれど・・・。」
「イメージって変わっちゃいました?」
「・・・・・イメージねぇ?」
そこで、哲司が一旦考えるようにする。
「どんな父親に見えました?」
「最初ですか?」
「うん。」
「堅そう、の一言。」
「あははは・・・・・。そうでしたか。」
どうやら盛り付けも終ったらしく、父親は一旦その皿から少し離れて、やや遠目からその盛り付けの状況を見ている。
そうしたことを初めて見た哲司は、不思議なものでも見るかのような目をしている。
父親が皿を運んできた。
そして、哲司の前にその皿を置く。
一旦置いてから、また手を副えて、少しだけ向きを変えた。
「本格的なんですねぇ。」
哲司の言葉には、ある意味で羨望の気持が込められている。
それを聞いた父親は、ただにっこりと笑う。
そして、同じようにして、自分の席の前にも皿を運んでから、もう一度ワゴンの所へと行って、着ていた大きなエプロンのようなものを脱いだ。
「さて、お待ちどう様でした。どうぞ、召し上がってください。」
自分の席に着いた父親は、哲司に会釈をしてから、そう言った。
哲司も遠慮は無用だと思った。
折角、自らの手で料理してくれたのだから、ここはひとつ、旨そうに食べるのが礼儀だろうと思っていた。
慣れないナイフとフォークを使ってだが、最初の一切れを何とか口に入れた。
「ああ・・・、無茶、美味しい!」
哲司の第一声である。
それは何も、「旨いと言ってやらないと」という計算から出たものではない。
確かに、頭の中では、ここまでしてくれたのだから・・・、というそれなりの思いはあったし、それは口に出すべきだとも思ってはいた。
だが、今、口から飛び出した一言は、そうした事前準備のされていない世界から突然のように飛び出してきたものである。
反射的に・・・、というのが正しいだろう。
(つづく)