第3章 やって来たパパ(その26)
「じゃあ、君のご両親も、君のことは分っていないと?」
父親は、「親が何でも知っている時代じゃない」という部分に強い反応を示した。
「はい、高校ぐらいまでは、両親の方はそうは思っていなかったようですが、最近では・・・・。」
哲司は敢えてそこまでで言葉を濁す。
そのまま続けると、両親への批判めいた言葉が羅列されることになりそうだったからである。
「でも、君のために、毎月の仕送りをしているんでしょう?
そんな言い草は無いと思うんだが。」
父親は、同じ親としての立場から、そのように反論をする。
「その仕送りにしたって、専門学校へ通うという名目があるからです。」
「名目?・・・・・つまり、君が嘘をついている、ご両親を騙しているってことだよね。
現実には、そうした学校へも行ってないんでしょう?」
「確かに行っちゃあいません。でも、専門学校へ通うから、その学費を出してくれとも言ってないんですよ。」
「だったら、どうして?」
「これで、専門学校へ行って、早く仕事ができるようになれと。」
「それじゃあ、その仕送りはご両親側の提案なの?」
「提案?・・・・そんな生易しいもんじゃないです。
これで、どこそこの専門学校へ行け、っていうことです。
言わば、押し付け、命令です。」
「でも、それは、君の将来を思ってのことでしょう?
ありがたいとは思わない?」
「・・・・どうしてですか?」
「どうして、って・・・・。」
「だから、僕の両親は僕のことを何にも分ってないって言うんです。」
哲司は、遂に声が大きくなってしまった。
その声の大きさに驚いたからでもないのだろうが、奈菜の父親はそれに対する言葉は投げてこなかった。
「そりゃあね、両親が僕のためにと思っていることは分ります。
でも、僕の人生は僕のものであって、決してオヤジやお袋のものじゃない。
オヤジやお袋に、僕の人生まで決められたくはないんです。」
「でも、ご両親だって、そんなつもりで君にアドバイスをしているんじゃないんだと思うよ。君の将来が少しでも良くなるように、君の人生が少しでも明るいものになるように、との思いから言われているだと思う。」
「僕の意見も聞かないで、僕の人生が・・・も無いものです。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
その時、ドアがノックされてボーイが入ってくる。
料理を運んできたようである。
(つづく)