第3章 やって来たパパ(その25)
哲司は、あの店長が言った「親子関係がギクシャクしている」ことを実感として肌で感じた。
この父親も奈菜をちゃんと理解してやってはいないのだろうし、一方の奈菜も、こと細かに自分のことを話したりはしていないようだ。
そのことが最もよく分かる事態である。
哲司自身も、どちらかと言えば、親子の会話は旨く出来ないタイプだと思っている。
哲司にとっては、両親は確かに信用できる人物であることは間違いはないのだが、だからと言って、何でも話せるほど親しいとも思っていない。
何かにつけ、親という立場からものを言ってくる。
「ああしろ、こうしろ」「それはダメだ、こっちにしろ」と。
干渉し過ぎなのだ。ほっておいてくれと言いたくなる。
まさに「ウザイ」存在なのだ。
高校へ進学する時だってそうだった。
中学までは義務教育である。
誰でもが、何の努力もしないでも、一応、学校にさえ行っておれば卒業までは面倒を見てくれる。
その中学での勉強が大嫌いだった哲司は、中学卒業と同時に勉強から開放されると喜んだ。
だが、両親はそれを許さなかった。
「今時、中卒でどうするんだ?せめて高校ぐらいは行ってくれ。世間に対しても恥ずかしい。」と言ったのだ。
「嫌いな勉強を、どうしてそこまでさせるんだ?」と咬みついたのだったが、同級生が皆進学をするのだと聞いてから、ようやく哲司もしぶしぶ進学を考えるようになった。
それでも、勉強が嫌いなのだから、当然のように成績は悪い。
クラスで1番か2番だ。もちろん下から数えてだ。
そこで、両親が学校に日参して頭を下げ通したらしい。
「数学」だけでも10段階評価の「4」さえ取ってくれれば、何とかできる工業高校に推薦を書いてくれることになった。
それで、ようやくのことで、あの工業高校に入学する事になった。
もちろん、「4」評価は担任が鉛筆を舐めた仕業である。
両親としては、哲司の将来を少しでも良くしてやりたいとの思いから出た行動なのだろうが、哲司としては、それは「余計な事」のように映った。
「親ってのは、どうしてそこまで子供を自分の思い通りにさせたいものなのか?」
そうした思いが、現在の哲司にも陰を落としている。
「お父さんが知らない奈菜ちゃんがいて、僕が知らない奈菜ちゃんもいるって事なんだと思います。
でも、それは、それが当然だとも思うんです。
今時、親が何でも知っているってことは無くなりましたから。」
哲司は、奈菜の父親の顔をじっと見て、そう言った。
そして、自分の両親にも同じ言葉を伝えたいとも思った。
(つづく)