第3章 やって来たパパ(その23)
「えっ!・・・・奈菜ちゃんが“考えておく”と言ったんですか?」
哲司は、今度は奈菜に対する驚きを覚えた。
「僕を、家に連れてくるように言われたんですね?」
その点をもう一度確認する。
「そうですよ。」
父親は明言する。
「それに対して、つまり、僕を家に連れてくることを、“考えておく”と答えたんですか?奈菜ちゃんは。」
哲司には、この部分が信じられないのだ。
父親は、今度は黙って頷いた。
「奈菜ちゃん・・・・どうしてなのだろう?」
「何がですか?」
「僕は、一度だって、“家に来ないか”という誘いは受けたことが無いんです。
そりゃあ、奈菜ちゃんも“考えておく”と言った訳ですから、直ぐに答えが出なかったのかも知れませんが、少なくとも、僕に“お父さんから家に連れてくるように言われているんだけれど”ぐらいの相談があっても良かったんじゃないかと。」
「君は、その話は聞いてないの?」
「はい。一度も。」
2人は、それぞれの思いのままで、しばらくは互いに黙ってしまった。
その時、部屋がノックされた。
「はい、どうぞ」と父親が答えると、ドアを開けてボーイさんが顔を覗かせた。
「あのう・・・・、お食事の方は、もう少しお待ちしたほうがよろしいのでしょうか?」
申し訳なさそうに訊いて来る。
きっと、上司から「訊いて来い」と言われたからやってきたのだろう。
時計を見ると、ここに座ってから半時間以上が過ぎている。
「そろそろ、運んでもらいましょうか?」
父親は、哲司に向かってそう訊ねる。
哲司も少し考えたが、ここまで話した以上、このままで帰るわけにも行かない。
ここは、食事を取りながらでも、この先を話し合うのが良いだろうと思う。
黙って、大きく頷いて見せた。
「じゃあ、運んでください。」
父親は、そう言ってボーイを部屋の外へ送り出した。
改めて席に戻ってから、父親が訊く。
「あの子の妊娠の相手が君ではないとすると、一体誰が?
それについては、どう思われているんです?」
「それは、実を言って、僕にもよく分からないんです。」
「妊娠に至った経緯は聞かれているんですよね。」
「はい、一応は。」
「納得されました?」
「いえ。そこまでは言い切れません。」
父親は、哲司を見直すような顔を見せた。
(つづく)